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【投機の流儀 セレクション】「フィジカルからデジタルへ」――企業が貯めこんだカネと個人金融資産

企業が使わずに内部に貯めているお金、それは400兆円を超えるというから時価総額の約8割に当たる。この巨大な資金が設備投資にも人件費にも開発費にも使われずに内部に現金として残してある。これは当初は単純に、20年間に及ぶ貸し渋りに懲りて、最終的には自分で金を持っていなければダメだと経営者が思い込んだからと筆者は思っていたが、そうでもなさそうだ。
企業が資金を使わなくなった背景には、設備投資というものから広義の情報というデジタルなものに産業構造の変化があるからであろう。企業の設備投資は史上最長の好景気と言われた今回の景気でも5年前の設備投資はピーク(530兆円)から1割減っている。企業がお金を使わなくなった背景は「モノから情報へ」の産業構造の変化に伴うものだと思う。経営の三要素としてイロハで教えるのは、ヒト・モノ・カネと言われていたが、今は「3プラス情報」であり4番目の要素が最重要になってきた。この「モノから情報へ」の流れを日本経済新聞は「フィジカルからデジタルへ」という言葉で使っていた(日本経済新聞12月27日号)。

この行き場のない資金は家計にも蓄積される。日本経済新聞によれば、日米独の家計の余剰資金は900兆円であり、リーマンショック前の08年の5倍弱に増えたという。これは筆者が思うには、国民の将来不安が解消されないし高齢化が進むから、日本では最も高齢者滞留資金が増額する速さは大きいであろう。
今年度の日本の相続税は54兆円とされているが、これはますます増えるであろう。筆者が産業能率大学の社会人講座で非常勤講師を7年ほど20年前に兼業で務めていた時代があった。その時に親しくなった卒業生の数人と年に1~2回は食事会をするが、その時には筆者が「今、自分が一番望んでいるものは何か」という話題を投げかけたところ、異口同音に「老後の不安がないことだ」とこたえた。「では先生は何ですか?」と訊くから筆者は「『自由』が一番欲しい。『自由』とはやりたいことがやれて、やりたくないことをやらないでいられる力だ。それにはカネがあった方が達成しやすい」と答えたら、「それでは究極のところ私たちが言うのと同じではないですか」とみんなで笑ったことがある。
将来不安が消えない限り、家計の貯蓄は積み上がる一方であろう。貯蓄は経済学上は「漏出(ろうしゅつ)」と言ってGDPの流れの中から漏れ出てしまう。これが投資に向かうことによってGDPに還流される。したがって小泉元首相が盛んに「貯蓄から投資へ」と呼びかけていたが、この考え方は経済学的にも正しい。
工業化による自動車の大量生産で伝説上の人になっているヘンリー・フォードは100年前に「資本の真の使い道はお金を増やすことではない。お金を増やして生活を向上させることだ」と、どの伝記にも出ている。お金を活かして使える、つまり滞留資金が設備投資に回る、あるいは消費に回る、そういうことで初めてこれがGDPに還流される。そのためには将来の生活不安が払拭されなければならないことが先決である。この流れが変われば一度に好景気・高度成長・高株価時代が来る。

世界最大の自動車市場・中国における日産・マツダ等の減産
米車・韓国車などの減産に続き日産自動車とマツダの2割程度中国で減産する。これは当然中国の景気減速によるものである。

【今週号の目次】
(1)2018年を振り返っての概観
(2)当面の市況
当面の市況;2
(3)当面の市況と中期的見方
○今年は中小型株が大幅安
○重要な内部要因――指数連動型投信が加速した下降相場
○日経ヴェリタス12月23日~29日号が掲載する市場関係者の予測に対する筆者の見方
(4)2019年の展望――19年は未来に備える行動をとるべく希望に満ちた年となろう。
(5)来年の米FRBの金融政策の見方
(6)欧州景気とECBの項目に追加――再び三度、クドクも三重野A級戦犯説
(7)世界を翻弄するトランプの政策は票田を狙う行動だという背景
(8)今回のNY暴落はムニューシン財務長官がバジョット・ケースの再現が輪をかけた
(9)米景気後退のシグナルは既に始まっている
(10)金融緩和色は薄いFRB
(11)金融正常化へのジレンマを抱く日銀
(12)インド中央銀行総裁の突然の辞任
(13)「フィジカルからデジタルへ」――企業が貯めこんだカネと個人金融資産
世界最大の自動車市場・中国における日産・マツダ等の減産
(14)ジャーナリスト嶌信彦通信2018年12月26日 vol.118より――「官民ファンド崩壊の教訓」
(15)宇都宮のKさん、「東電に関する一考察――保有を考えるか利益確定売りを敢行するか」について11月4日に交信したKさんとの交信(12月27日)
蛇足 投機家列伝(1)

【来週以降に掲載予定の項目】
○来年は調整継続時期を擁して、ファンダメンタル面でもテクニカル面でも大底に届く可能性あり、すなわち「再来年に跳躍するための屈伸の姿勢」をとる楽しみ多き年になろう
○大底の付け方にもいろいろある

【お知らせ】
「投機の流儀 セレクション」のアーカイブは、電子書籍の紹介サイト「デンショバ」にてご覧になれます。

デンショバ
http://denshoba.com/writer/ya/yamazakikazukuni/touki/

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。

ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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