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【投機の流儀 セレクション】菅政権は大変な局面に直面している

ポスト安倍政権の宿命を背負う菅政権は大変な局面に直面している。国家の最高リーダーの第一の使命は国民の生命と財産を守ることだ。具体的に言えば国防と経済だ。国防は100%米国に依存する。ところが経済は米中がともに日本の輸出顧客の1位と2位だ。その米中が激しく対立している。どうするか。官房長官という全方位業務を7年8ヶ月もソツなくやり遂げた才人ではある。
かつて中国が経済二流国家であった時代に中国の指導者は「政冷経熱」と知恵深いスローガンを掲げた。そして現在の経済大国中国がある。
「ポスト安倍政権」と気安く言うが、安倍政権の前半と後半では対米・対中に対する態度は豹変した。安倍政権が変わったのではない。米中関係が変わったのだ。7年8ヶ月の任期の中の前半の3年9ヶ月は中国の海洋進出拡大に焦る日本に対してオバマは何もしなかった。韓国にもナメられた。後半の3年9ヶ月、米中後半の3年9ヶ月は安倍政権はトランプとベッタリで、そのトランプは米中対立を本格化させた。そこで日本は今後は米中両にらみの状態になり踏み絵を踏まされる立場になる。安倍元首相は8月28日の辞意表明の後、後任の総理大臣も日米同盟を強化していくことに変わりはない、よろしくと電話したという。ところが国防問題はそれで進めてきたし、今後もそれ以外に方法はないと思うが、そこに経済と言う問題が加わると事態は一挙に複雑化する。 中国経済に輸出を大きく依存している日本は米中冷戦時代にどのようにするか、である。かつて中国の知恵者が言ったように中国に対して「政冷経熱」という具合にうまく行くだろうか。中国の知恵者が政冷経熱と説いたときは中国はまだ二流国だった。軍事的にも米国の相手にはならなかった。だが、今の中国は違う。米国は被追尾国となり、中国は押しも押されぬ追尾国となった。菅政権が米にベッタリならば中国ビジネスは縮小しなければならないという踏み絵を踏まさるのか。米中対立が貿易摩擦の範囲に終わってくれれば日本は漁夫の利を得るという方法も大いにある。しかし、米中対立が覇権争いに展開した今日、問題は複雑になる。

菅政権は全方位業務を展開した才人ではあったが、外務大臣の経験もないし、東南アジアと歩調を合わせて大国インドや隣国韓国などと歩調を合わせて米中関係の改善を誘導する立場に立てるだろうか。筆者は何の根拠もないが非常に危いと思う。
佐藤優氏は「外交はイデオロギーではなく、現実に基づいて進められるべきだ」と言うが、かつての米ソ冷戦時代とは違って今は、イデオロギーの対立する国どうしが経済で協力し合わなければ両方ともうまく行かないという難しい立場にある。米中新冷戦は米ソ冷戦よりもずっと複雑で難しい。

70年以上前、ソ連・中国・北朝鮮に対してアメリカが頼りにした防波堤が日本だった。吉田茂元首相は白洲次郎とダグラス・マッカーサーと図って米ソ冷戦が激しくなるまで独立を伸ばした。米ソ対立が激しくなった後、日本はアメリカにとって重要な役割を果たし、その後の復興と成長の時代を迎えた。そこからはわずか1兆円から始まって23年後にはGDP世界第2位の国になった(1968年)。あの頃と今とは違う。もっと複雑である。米中の経済対立は経済の問題に限れば漁夫の利を得ることもあり得るが、イデオロギーの対立や覇権争いが絡むから日本は踏み絵を迫られる場面があろう。鄧小平のような知恵者でかつ実行力があり、かつ説得力のある者が必要となろう。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況
(1)今からの焦点は11月3日の大統領選だ。そしてそれを占う焦点は明後日から始まる第1回目の大統領候補者討論会である。しかもその最初の10分間だ
(2)週末の市況;「炭鉱のカナリア」(★註)から占う米市場
(3)マザーズ指数が2年半ぶりの高値となった
(4)大統領選挙に関してトランプが“October surprise”を起こす
(5)物流株に景気復調の兆し
(6)年内総選挙の可能性があれば積極財政から財源調達に軸足を移すか―国内要因から来る二番底が形成?
(7)9月末の配当権利取りの買いなどで相場は底堅いだろうが上値は重い
(8)組閣当初の「内閣支持率」は当てにならない
第2部 中長期の見方
(1)証券3社の20年度と21年度業績予想
(2)「バイデン勝利で何が変わるか」
(3)組閣当初の内閣支持率
(4)菅首相がトランプに対して安倍元首相のやった「クリンチ戦術」はできるだろうか
(5)菅内閣は、オバマ前大統領のような理念やビジョンを語るだけの首相でなく個別の課題ごとに一点突破の姿勢を固めて政策を遂行するように見える
(6)中長期の見方:「賢者の投資、愚者の投資」
(7)やはり、「株価は知っていた」
(8)菅政権は大変な局面に直面している
(9)国家の最高指導者がやるべきことは領土の保全・国民の人命・国民の財産を守ること――当たり前だがこれが先決だ
(10)菅首相の課題
(11)年末高シナリオに警戒感
(12)米中が喧嘩すれば、両国を輸出最大顧客にしている日本が一番ワリを食う
第3部 相場に向き合う時の心得―「技術者」と「技能者」。「技能者」はトレードを金儲けの具にとどめず思索の糧にまで持って行く
(1)「技術者」と「技能者」
(2)金融相場と株式市場の心理
日経平均、NYダウ、TOPIX、単純平均、ドル建て日経平均

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
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『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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