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selfish girl again

(あっちゃん、主夫になる)

フミは黒髪をかきあげながら
俺に妙なポーズを決めてくる。


「じゃーん!
黒染めしたぜ!」

「うるせー、留年野郎。
髪染めるのもおせーんだよ。」


そしてその隣では
桜先輩の妹のつぐみちゃんが
なぜか爆睡している。


「そんで、なんでつぐみちゃんが?」

「あー…。ついてきた。」

「お前ら続いてたのかよ?!」

「うーん…?
俺もよく分かんねーんだけど
まあ、別れようって話したことねーし
俺はつぐみのことが好きだし
つぐみも俺のこと好きだから
多分、続いてる。」


よだれを垂らして眠るつぐみちゃん。

俺はため息をつきながら
つぐみちゃんにタオルをかける。


「あつし、つぐみに発情すんなよ」

「しねーよ。


…つーか、真姫の前でそういうこと
言わないでくれる?!

変な言葉覚えたらどーすんの?!」

「いや、まだ1歳だろ?
…ん?もうすぐ2歳?」

「天才の娘なんだから!
めっちゃ喋るんだから!」

「いや、
喋ってるの見たことねーよ」


冴島と結婚してから、三年。


俺は主夫になった。


「今日の夕飯はなに?」

「お前、
ほんと寄生する才能だけはあるよな」

「それ、兄貴と母さんにも言われた」


三年前。


なかなか結婚を認めない俺の母親や
ヒステリーが止まらない冴島の母親に
俺の兄貴が一言いった。


「子どもでもいたら母さんも
納得するんだろうけどなあ」


その時の冴島の
「なるほど」って顔を
俺は忘れない。


「いやー、にしても由香ちゃんって
ほんっとに自分勝手だよな!」

「まあ、泰睦が寄り付かなくなる程度には。」

「子ども産んだら淳士に預けて
とっとと海外に単身赴任だもんな。

で、仕事辞めさせて、子育てに集中しろって
発想、モラハラの夫だよな。」

「真姫の前で余計なこと言うな。
俺は楽しいんだ」


冴島は案の定、

普通の20代の5倍稼いだ。


俺が働く理由は
俺が就職したと同時になくなり

俺が家に入らなきゃいけない理由は


真姫が生まれたと同時にできた。


「俺、仕事やめるわ。」


そういった時の冴島は
やっぱり、笑顔だった。


「由香ちゃんって今なにしてるの?」

「しらねーよ。
すげー忙しいって分かってるだけで
昔よりはマシだ」

「言ってて悲しくならねぇの?」 


ならなくなった。

真姫を育てるようになって、
そんなことは思わなくなった。

むしろ、毎日が楽しくなった。


「ぱぱー、」

「ほら、飯にするぞ。
フミ、つぐみちゃん起こせ。
準備くらい手伝え!」

「…俺、また淳士と二人で
風俗行きたかったな。」

「食事前に下品な話するんじゃない!」


冴島のいないこの家で
毎日、冴島を少し恨みながら

それでも、
どんなにあいつが自分勝手でも
好きだなあって思いながら


俺はあいつの
犠牲になる。


selfish girl again








* *


「淳士もほんと、
真姫ができて変わったよな」

「うん。
もっと気楽な人だったのにね。」


フミとつぐみちゃんが
俺の作った料理を食べながら語らう。


「…いや、つーか、お前らが
変わらなすぎて怖いんだけど。」

「まあ、私たちは私たちのペースで
のんびーり、やってくので。」

「つぐみちゃん、
薬学部入ったんだね。
フミが留年してる理由わかったわ」






2018.04.23

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