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笑えてくるほど愛しくて


「だから、そんなに足上げんなって!」


思わず大きな声になった俺を

うざそうに見る美波。


「仕方ないじゃん!
上がっちゃうんだもん!」


そう言ってからため息をつき

俺にボールを投げ渡す。


「もう、やめた。

別にリフティングなんて
できなくても良いし。

できたって何も得ないし。」


それでも俺が
投げ渡されたサッカーボールで
リフティングを始めると

邪魔してボールを取り上げる。


「なんだよ?
もう、やめるんだろ?

別にできなくても良いんじゃね?

諦めるのもアリだぞ。」


わざとそうやって
挑発的に言うのは

ムキになる美波が可愛いから。


「…やめないしっ!」

「おー、頑張れ。」


もう一度ベンチに座った俺を
チラッと見て睨む。


「なんで笑ってんの?」

「笑ってねーよ。」


そりゃ、笑っちゃうだろ。


こんなに単純に面白いほど
挑発に乗っかって。


「もっと膝使えよ。」

「使ってるよ!」


自販機で買ったコーヒーを飲みながら
美波を見てそう言うと、怒りながら言う。


「優二が出来るからって
みんながみんな、そうやって
簡単に出来る訳じゃないの!」


だけどみんながみんな

お前みたいに苦労する訳じゃ

ないと思うんだけどな。


「悔しいっ!
こんなに練習してるのにっ!」


そう呟きながら

ボールを軽く上げて

また、蹴りはじめる。


なんだか見てられなくなって

一度ボールを取ってから

美波の隣で指導する。


「あのな?

お前はいっつもこの
爪先に当てちゃってんの。

そしたら、ほら。

ボールは飛ぶだろ。」


美波の真似をして言うと

納得した様に頷く。


「だからもっとこの
足のこの辺に当てんだよ。」


美波の靴を叩くと

大きく頷いた。


「でも優二がやるときは
モモも使ってるじゃん。

私はそっちのときも
どっか行っちゃうじゃん。」

「お前は膝に当たってるからだろ。

ここに当たったら

こう飛んでくだろ。」


また、軽く実演した俺を

あぁー、と感心しながら頷く。


「あと、高く上げすぎ。

このくらいで良いんだよ。」


軽くリフティングして見せると

真剣に俺を見てくる。


「ほら、な??」

「すごーい…。
さすが元サッカー部部長だねぇ。」


このテンションの上下も

見てて本当に楽しい。


「はい、やってみて。」


ボールを渡すと

美波はもう一度、リフティングする。


すると六回ほど続き。


七回目で落としたけれど

自信満々で俺を見てきた。


「できたっ!」

「おう。すごいな。」


軽く拍手した俺を

なぜか叩いて来る美波。


「なんだよ?」

「バカにしてるしっ!

たった七回、とか
思ってるんでしょっ!」


そんな美波を見て
また、笑えて来る。


「ほら、笑った。」

「お前が可愛いから。」


そのまま答えると

少しだけ恥ずかしそうにした。


「そうやってごまかす。」


俺はベンチから立ち上がり

美波の手からボールを取った。


「ごまかしてねーよ。

本当に思ってる。」


うそだー、とか何とか言って
少し笑いながら

俺の隣に並びながら

指を絡めるその手を


しっかり、握り返した。



笑えてくるほど愛しくて







**


束縛も、愚痴も、文句も

なんだか笑えてくるのは


それほど君が愛しいから。






2011.01.17

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