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さみしくないもんなんて、強がり

桜先輩の愚痴を聞き始めて、はや一時間。

こんな機会がくるとは思ってもいなかったので正直、
若干の自己嫌悪を覚えている。


「けっきょく、私は伊達のママなのよぉ!」


酔っ払ってるのも、まぁ、
面倒とかあんまり思わないから
そんなに嫌ではないし。


「…飲み過ぎでは?」

「りょーすけも飲め!」

「いや俺は…、」


未成年とか以前に
俺まで飲んだら収拾つかない。

しかし、なんでこんなことに。

伊達先輩にバレたら
本当にボコボコにされる。


「あの…、
伊達先輩はいつ帰ってくるんですかね?」

「んー…、しらなぁーい。」


流星先輩に頼まれて
野上先輩に新しく出すCDを渡しにきたら、

野上先輩が
「ちょうどよかった!カク!
俺、これからバイトなんだ!」
という言葉と入れ替わるように
酔っ払う桜先輩をおいて家を出て行った。

流星先輩に連絡したら
「酔っ払った山本はエロいから
目に焼き付けとけよ」
という言葉とともに電話を切られた。


事実、エロいが。

ずっと俺の足に手があるし。


ゆなちゃんごめんね、
でも桜先輩だし酔っ払いだし
許してごめんね!!


「…つーかさ、」

「はい。」


「りょーすけはゆなちゃんに
ちゃんと愛を伝えてるわけ?!」


トロンとした桜先輩の目が
一瞬だけ俺をにらむ。

首をかしげた俺の頬を軽くつねる。


「…伝えてますよ。」

「お前はなんにもわかってないな!
そーゆーとこが朝長なんだよ!」


うわ、桜先輩の朝長呼び、リアルだな。

初めて聞いたかもしれない。


「先輩たちって普段、
下の名前で呼び合ってるんですか?」

「んー、いろいろ。
私は桜って呼んでほしいけど、
朝長は照れ屋さんだからね。

私だけ下の名前で呼ぶの
私のが好きみたいで悔しいじゃん?

だから、伊達って呼ぶ。」


ふふ、って笑う桜先輩。
…女子だ。
女子なのか、桜先輩も!


めっちゃかわいい!
フクとおーさわに話したい!


「喧嘩したりするんですか?」

「あんまりしない。
イライラしても、がまん。
そのうち忘れるし。」

「へー。」

「嫌われたくないもん。」


体育座りして、
小さく丸くなって言う。

…なるほど。
流星先輩の言ってた意味
わかってきた。


伊達先輩の話の時は
桜先輩は乙女だ。


「…こないださぁ、
大学の男友達から
誘われたんだよ、ご飯。」

「…え、行ったんすか?」

「うん、五回くらい断ったんだけど
しつこくてさ。
嫌いなわけではないし?
伊達にも行っていいって言われたから。」

「…で?」




「ホテル誘われた。」


飲んでたお茶を落としかけたが
そんな俺は気にせずに
桜先輩は深くため息をついた。


「…え?!行ったんですか?!」

「その前日に伊達に
めーっちゃイライラしててさ。」

「えっ?!行ったの?!」


俺をじっと見て
焦らすように、いたずらっぽく笑った。

だけどそのあと、
切なそうに俺から目をそらす。


「無理なんだよ、伊達以外。」


悔しいなぁ、と桜先輩は言って
グラスに入った焼酎を全部飲む。


「男と二人でご飯食べてても
誘われても、告白されても

そりゃ、楽しいけど、
直後に切なくて悔しいの。


伊達をだれも越えないから。」


りょーすけー!って。

そう言いながら俺に倒れこみ
綺麗に膝で着地した。

しばらく経つと寝息を立てて、
あぁ、きっと、今日も
俺が伊達先輩を超えないことを
悔しんでたのか、いや、

俺なんかにはもう、
そんな期待もしているはずもなく、


俺もゆなちゃんに

会いたくなってしまった。



さみしくないもん
なんて、強がり







**


「ただいまー…。…は?」

「ぅおぁ!!だ、伊達せんぱ、」

「お前は誰の膝に誰の頭を
どうやってどうして、」

「いや、誤解っ、…でもないけど、」

「はぁ?!」

「いやちが、…あ、ほら、
桜先輩起きちゃいますよ?」

「起きていいんだよ!起きろぉ!さくらぁ!」

「…あ、今さくらって、」

「…うるせぇ、山本だ。」






2014.02.22

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