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ただのファンの一人です


仕事が終わってしばらくすると
私のミュージックプレイヤーを見て
先輩が少し不思議そうにした。


「ねぇ、留美子ちゃん。
この人達だれ??」


私が聞いていた音楽のタイトルを
目をこらして見る先輩。


「あー!!すみませんっ!!

職務中に音楽聞くとか
やっぱ、ダメですよねっ?!」

「あ、ううん、それは良いのよ。

今は休憩の時間だし、
留美子ちゃん、仕事終わってるし。

ただ、音漏れて聞こえてて、」

「あー!!
迷惑でしたよねっ!!」


慌ててミュージックプレイヤーの
電源を切り、イヤホンを外す。


しかし先輩は苦笑して首を振る。


「いや、そうじゃなくて…。

良い曲だなって思ったの。」


目をパチパチさせて

先輩を見てしまった。


「でも、知らない人達だったから
誰なのかなーって思って。

私、割とバンドとか詳しいのに
知らないの少し悔しくて。」


そして先輩はもう一度
ミュージックプレイヤーを見る。


「…Galactic Stars??」

「そうです。

まだメジャーデビューは
してないんですけど
雑誌とかにも載ってるほど
注目されてるんですよー。」


私はサンドイッチを口にくわえ
散らかった棚から雑誌を取り出す。


「ほら、これっ!!」

「…みんな、まだ10代??」


驚いた顔をする先輩に

私は饒舌に説明する。


「そーですよっ!!

ギターのフクちゃんは
迅薪大に通うエリートで

ベースのカクちゃんは
ギャグが超つまらなくて。

ドラムの大澤くんは
彼女溺愛らしいんですよー。

ぽいですよね、ハハ。

そしてキーボードのスズちゃんは

ボーカルの四谷くんと
交際してるんですよ。」


彼の名前を私は未だに

下の名前では呼べない。


「へぇー。
四谷くんって子、顔も綺麗ね。」

「そうなんですよー。
このバンド、皆ビジュアルも
そこそこ良いんですよ!!」

「私は大澤くんが好きよ。」

「あー、そうですか??

でも、ギャラスタの魅力は
音楽なんですよっ!!

こう…、聞いててキューって
胸が苦しくなるってゆうか。」

「CDはどこにでも売ってるの??」

「いやー、それが限られた店とライブで
限定発売だったんですよ!!

だから今度、貸してあげます!!」

「え??ありがとう。

…にしても留美子ちゃん、
このバンドに詳しいわね。

ライブとか、よく行くの??」


大きく頷いて、

笑顔をつくった。


「私、中学の頃から

四谷くんのファンなんです。」


え??と、不思議そうにする先輩。


「中学の頃からバンド組んでるの??」

「いえ。違います。
中学の頃はピンでした。」


忘れられない。

貴方がよく、教室で
一人、国語の女教師待ちながら

小さい声で歌ってた、あの歌。


「その時から

ファンだったんです。」


四谷くん。


私は今も、バカみたいに

貴方の歌に聞き惚れてるよ。



ただのファンの一人です






**

「四谷くん、ヤロ??」


あの時、貴方を選んだのは

貴方のファンだったから。

貴方に憧れていたから。


ライブハウスの端にいる私から

これからもどんどん


遠ざかってくれると良いな。






2011.05.09


【確かに恋だった】サマ
「ただのファンのひとりです」

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