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避暑地へ

サラサラと水音が近くもなく遠くもない所で流れている。
川かな、と思ったらそれは水路であった。
この街には水路が張り巡らせてあって、それがどうやら今回の目的地である坂上の寺まで続いているらしい。

さて、先ずは何故私がこの街に来たかを説明しよう。
単純だ。
暑さを避けてやって来たのだ。
毎日通勤中に私の露出した腕が、腹が、足下までもが呻いている。
「助けてくれ。暑い」と。
そんな訳で私は休暇を利用して、この街にやって来たのだ。


手のひらをぶらぶらとさせながら、坂を登る。
坂は石畳であった。
其処彼処で水を撒く音が鳴っている。
上を見上げると背景かの如く佇む森が、おーい、と呼んでいるようだった。
そうして気づけば、そこは目的地だった。


大きな山門に、深々と一礼する。
「暑さから逃げるようにこの寺に来たが…」
これは私の独り言。


「しかし、もうすっかり涼んでしまった」


サラサラ、とまだ何処かで水の音が聞こえる。


#旅する日本語
#涼み客
#ショートショート
#小説

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