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何度でも、おまじない

「うるさい、もう知らない!」
そう言い放つと、気持ちがスッとすると同時に『やってしまった』感が押し寄せて、彼女はその場を早々に離れて駅に向かった。
ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
彼女は回らない頭で考える。

事の発端は、彼が遅刻したことだ。
待たされる事自体が嫌だった訳ではない。
ただ、自分との時間を惜しんではいないからこその遅刻のように思えて、寂しかっただけだ。
するとだんだん些細な事(彼から手を繋いでくれないとか、今日は泊まらない、とか)が気になって、爆発してしまった。
まさに些細な事である。
彼も面食らっているだろう。

しょんぼりとうなだれて、電車に揺られる帰り道。
まだ太陽は昼間の高度で、本来であれば彼といた時間だと思うと、泣けてきた。

彼女は自分の掌をみつめる。
暫くして目を瞑り、掌の生命線を指でなぞった。
何度も何度もなぞる。
そして心の中で考える。
もうしない、次はかっとしない。優しい私で、彼を大事にする。
いっぱい唱えて、深呼吸。
目を開けると新しい自分になれた気がした。

これは彼女の昔からの儀式だった。
嫌な自分を認めて、そしてお別れするための儀式ー。
自分の掌にある生命線は、きっと日々変わっているだろうと彼女は思う。

自宅の最寄駅に着くと、気持ちも落ち着いていた。
今日は野菜スープでも作ろう。
身体に良いものを食べて元気になったら、彼に素直に謝ろう。
なぞった拳をきゅっと握る。
こんな事の繰り返しだ。
何度も反省して、新しい自分でまた歩くのだ。
太陽は素知らぬ顔で、今日を明るく照らしている。
てらてら、てらてら。



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