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アマヤドカリ

9月10日。今日は雨の日。
雨の日には、アマヤドカリたちが一斉に大移動を行う。

アマヤドカリは、土の中に住んでいる。
その形はカニのようでエビのようでヤドカリのようだ。
アマヤドカリの色は、生まれたときは無色透明。それが住んでいるところに合わせて、カメレオンのように擬態して色を変える。
だからアマヤドカリは大抵いつも茶色い。


雨が降ると、アマヤドカリは一斉に土の中から這い出てくる。
アマヤドカリたちは、その名の通り雨を借りるのだ。

「雨だ、雨だ」

カサコソカサコソと音を立てながら、アマヤドカリたちは雨に乗る。雨に擬態したアマヤドカリたちは、生まれたままの色に戻って、雨から雨へ移動する。
何千匹、何億匹ものアマヤドカリが雨の中を移動するけれど、その色は雨と同じ無色透明で、誰も気づくことはない。
カサコソカサコソ、カサコソカサコソ。
雨の日はアマヤドカリたちの大移動だ。

雨が上がると、アマヤドカリたちは乗っていた雨からまた一斉に地面に降りる。
雨を離れたアマヤドカリは、お日様に照らされて、一瞬だけ光の色に変わる。
赤、黄色、緑、青、紫と、その色は角度によってくるくる変わる七色だ。



「あ、虹」
どこかで少女がアマヤドカリを指していう。

そう、虹。
虹の漢字に虫が使われているのは、そういうこと。



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