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私のピアノ

悔しい。悔しくてたまらない。

私は心の中で叫んだ。
この感情はなんだろう。
悔しさと怒りと悲しみが混ざり合って化学反応を起こしている。
それが今にも爆発しそうだった。

その日は、ピアノコンクールがあった。私は幼い頃ピアノを習っていて、社会人になってまた習い始めたのだ。


絶対賞を取れる自信はあった。
私は私のピアノを愛している。

仕事がどんなに忙しくても、夜にはイヤホンを付けて遅くまで毎晩練習した。
夫には恥ずかしくて、コンクールではなく発表会だと嘘をついた。
賞を取ったらびっくりさせよう、そんな妄想までしていたのに。

結果は見事落選した。


それでも日常はいつものように存在する。
夜にコンクールから帰ってきて、そのまま溜まった洗濯物を干す。
夫には何も言えなかった。

ベランダから見える空に星は1つもない。
東京の空は明かる過ぎる。

星でも見えたなら『この広い宇宙の中では、ほんの小さな出来事だ』とかなんとか、思えるのに。


悔しさをバネに生きていける人って
本当に強いと思う。
辛い時に立ち上がれるのってすごい。

私は嬉しいはバネにできても
悔しさからはいつも逃げてきた。

今度は逃げたくない。
でも、もう辞めたいって逃げ出そうとする自分がいる。
私は必死に彼女を説得しようとするけど、言葉がみつからない。


暗澹とした気持ちのままベランダから戻ると、夫が「発表会どうだった?」と聞く。

「上手に出来たよ」
目を合わせず通り過ぎ様に答えると夫の声が追いかけてくる。
「良かったね」

「君のピアノ、優しい感じがしてて好き」

私は振り返って夫をみた。
夫の笑顔。夫の目。

あぁ、まだ頑張れる。



#ショートショート
#小説
#今日は何の日

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このお話は、「今日は何の日」という企画で、今日が何の日か勝手に決めてお話を書いています。今日は9月8日。ピアノコンクールの日です。▶︎ツイッターにて企画の話や創作の話をなどなど呟いてます▶︎http://twitter.com/toufucoromochi
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