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音楽体験から生まれる至高の癒し

ネット上では読めなくなってしまった、2017年「Sony Life Space UX」のウェブメディアににて取材を受けたときの記事。

「音とセラピー」に対するわたしのスタンスの基本がよくまとまっているので、こちらにアップしておきます。

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音楽体験から生まれる至高の癒し

世界各国の自然療法を織り交ぜ、オリジナルのセラピーを生み出していくセラピスト、小松ゆり子さん。そのセラピーを受けた人たちは「身体がすみずみまで解放され、心と魂にエネルギーが満ちる」といいます。現在はプライベート・アトリエ「corpo e alma(コルポ エ アルマ)」でパーソナルな施術を行うほか、音楽フェス「SUMMER SONIC」でのセラピー、イベントの企画・運営など、幅広い活動を展開しています。そんな小松さんのセラピーでは、音楽が大事な役割をはたしているのだとか。東京・南青山にひっそりと存在するプライベート・アトリエを訪れ、お話を伺いました。

物音ひとつまで癒しの要素になる

小松さんのセラピーは「今日はどんな音楽をかけようかな」と考えるところからはじまります。選ぶ基準は、小松さんの経験値と感性が頼り。お客さんが来る前に曲を選び、音楽をかけながらその日の準備を進めます。

「晴れの日に聴きたい音楽と雨の日に聴きたい音楽って違うと思うんですよね。天気や時間帯を見て、今日はゆったりめのアンビエントがいいのか、流麗なポストクラシカルがいいのか、そのなかでもどんな彩りの音がいいのか、その日のセッションを想像しながら決めていきます。

常連さんが来る時はその方をイメージして選ぶこともあります。私のセラピーでは施術中も音楽をかけているのですが、私自身、音にリードされてストローク(※1)や流れを生み出している部分が大きいです。

2時間のセッションなら、2時間の音楽を奏でているような感じ。施術の前後には音叉やベルなどの楽器類を使って、生音によるアプローチも行っていきます。

スピーカーから流れる音に加えて生音を入れると、音の世界が立体的になり、空気を変えられるので」

そういって小松さんが音叉をならすと、頭の奥まで届くような高音がポーンと響きました。

「いま鳴らした音が528ヘルツの単音で、これは「愛の周波数の音」といわれています。こうした体に心地いい音をメインに扱うセラピーの方法も存在します。

ただ、私は手技によるオイルトリートメントがメインなので、施術の導入部分でいくつか音を鳴らしてみて、体をセラピーモードにしてから手で触れ、マッサージに入ります。ホットストーンや精油を使って、いろいろな感覚にアプローチしていくんです。たとえば体の上に温めた石を置いた状態で軽く石を叩き、その振動で体内の水に影響を与えて体を緩めてみるとか。

終了の合図はチベタンベルの音を鳴らして終わりにすることが多いです。寝ているお客さんの足元からおなか、頭へ向かってベルを鳴らしていって、音で包み込むようにして終わるという感じです。すると、ふわっとしていたお客さんの意識が『あれ』という感じで現実に戻ってくる。

音は、セラピーの大事な要素のひとつですね。施術中は私が歩く足音や水の落ちる音なども、すべてセラピーの一要素だと思っています」

世界を旅してセラピーを学んだ修業時代

昔から音楽が好きだった小松さんは、大学卒業後、レコード会社に勤めミュージックプロモーターとして忙しい毎日を送っていました。セラピストへ転向したきっかけは、多忙な毎日にストレスをケアする必要性を感じ、アロマセラピーに興味をもったこと。それからさまざまな自然療法を学んでいくうちに、セラピストなら一生を通じて自分の経験を仕事に生かしていけると決意し、30歳で退社。アロマセラピストの資格を取得後、ホテルのスパでキャリアをスタートさせました。その後はさまざまなサロンに勤めつつ、世界を旅しながらセラピーを学んでいったそうです。

「東京でひと通りセラピーを学んだ後、旅に出てはその土地土地でセラピーを学んでいた時期があったんです。最初は旅を楽しむだけだったのですが、そのうち、人々の生活のいたるところに、「治癒」が潜んでいるということに気づきました。

バリ島でエサレン・ボディワークのトレーニングを受けたり、カウアイ島でクリスタル・ヒーリング学んだり、屋久島の自然の中でストーンセラピーを学んだりと、すっからかんになるまで勉強しましたね。

特に、エサレン・ボディワークの哲学には大きな影響を受けました。エサレンは1960年代にカリフォルニアで起こったヒッピームーブメントや人間性回復運動を背景にはじまったトリートメントです。全身を包み込む波のようなロングストロークによって、メディテーション(瞑想)の域にまで連れていくボディワークといわれています。

その時の先生が『セラピーはアートだ』と仰っていて、セラピーは単なるマッサージではなく、クリエーションな行為だという概念を教えられました。それを聞いた時に、レコード会社を辞めて音楽の仕事から離れたと思っていたけど、じつはそんなに離れていなかったな、と。

ボディワークはセラピストとクライアントの間で行われるライブセッションのようなもので、アートでありエンターテイメントであるという思いを新たにしました」

小松さんはさまざまなセラピーを学んでいくうちに、東洋的な押圧や西洋のロングストローク、植物や鉱物の力を織り交ぜ、オリジナルのセラピーを生み出していきます。2009年に訪れたモロッコでは、砂漠に暮らす遊牧民の人々からインスピレーションを受け、さまざまな場でセラピーを展開する「nomadic bodywork」のスタイルを提唱。以来、「場とのコラボレーション」をテーマにイベントを企画・運営するように。音楽フェス「SUMMER SONIC」「Blue note Jazz Festival」などでセラピーを展開したり、シェア・オフィス内のリラクゼーションスペースのプロデュースをしたりと、領域横断的な活動を展開していきました。

音楽の力を借りて、深い癒しの世界へ

音楽が大きな役割をはたす、小松さんのセラピー。そこには「音の振動が確実に体に影響を与える」という音楽への絶大な信頼がありました。

「フェスやライブでわーっと盛り上がった時に、ある種のカタルシスを得ることがあると思うんです。私はそういった体験も癒しのひとつだと思っています。

2016年7月にモロッコの小さな村へ行ってきたのですが、そこでも音楽による癒しを体験しました。その村では年に1度、伝統音楽を守り続けているマスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカと呼ばれる音楽家たちが全世界50名限定の音楽フェスティバルを開いて、ジャジューカ(※2)の音楽を演奏するんです。

それは太鼓と笛の音が延々と反復される演奏なんですけれど、音楽というよりも、音の振動を浴びている感じなんです。その振動を体で受けとめているうちに、頭のなかから余計なものが取り払われていくという体験をしたんですね。ただシンプルに、自分の本質に戻るということだと思うんですけれど。

私はそういった音楽によって導かれる境地も、癒しの領域にあると思うんです。そしてセラピーというものも音楽の力を借りることで、単なる治療にはできない、より深い癒しを引き起こすことができるのではないか、と。

なので私は、自分のセラピーでも音楽的な要素を大事にしていきたいと思っているんです。音の振動が体に染み込んで影響与えるということは、いつも忘れないようにしていますね」

小松さんは音楽フェスやクラブなどでも、数々の音楽による癒しを体験してきたといいます。そうした実体験が、ゴッドハンドといわれる小松さんの手技の秘密なのかもしれません。また、さまざまな自然療法を見てきた小松さんは、ギリシャを訪れた時に、古代ギリシャ人の医療の考え方に驚かされたといいます。

「ギリシャにエピダウロスという、医学の神様の神域だった古代遺跡があるんです。そこには医療施設や入浴施設、野外劇場、音楽堂などの心身を癒す施設があるんですけれど、そのなかで一番大きな面積をとっているのが、劇場だったんですよ。

古代の人たちがそこへ何をしに行っていたかというと、観劇をすることで精神を浄化し、病を治そうとしていたらしいんです。病むのは心の問題だから、劇を見て心が健全になれば病気が治る、という考え方なんですね。

古代ギリシャ時代の医療に、そこまで芸術が重きをおかれていたというのは興味深いですよね」


セラピーではBrian Enoの「The Pearl」、坂本龍一さんを中心としたユニット、hoonによる胎教音楽集「CBL」、細野晴臣さんがコンパイルした伝説のボックスセット「aroma sonora」、A Winged Victory for the Sullenのセルフタイトルアルバム「Winged Victory for the Sullen」などをかけることが多いのだそう。

オーケストラが音を重ねるように、手のタッチを重ねていく

セラピールームには、ベッドの両脇にLED電球スピーカーが置かれていました。お客さんに「このライトから音楽が流れているんですよ」と伝えると、びっくりされることが多いのだとか。「高いところにスピーカーを設置すると、お客さんには音が上から降ってきて、包み込まれるような感じを覚えるそうです。関接照明として使えるのもいいですね」と、小松さん。こんなにシンプルな空間なら、お客さんは触感と音の世界に深く入り込んでいけそう。

「体の表面なのか、筋肉なのか、脂肪なのか、手で探りながらマッサージをしていきます。オーケストラが音を重ねるように、手の圧の深さを変えながらで音楽を奏でていくようなイメージです。

楽器は得意な方ではないんですけれど、自分の体を楽器のようにして演奏している気持ちですね。それがちゃんとお客さんに伝わっているといいなと思いますけど(笑)」

※1 ストローク:マッサージをする際の手の動き
※2 ジャジューカ:モロッコ北部にある村、ジャジューカの儀礼音楽。元ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズの録音によるアルバム「Brian Jones presents the pipes of pan at Jajouka」がリリースされたことにより、世界的に有名になった。

■ 小松ゆり子 official web site



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