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レクリエーション葬 ~死ぬことに命を懸ける?~

テンポよく笑いが入る、涙を誘う、そんなシーンの繰り返しに心が振り子のように揺れる。涙を誘うシーン(というか僕が勝手に泣きそうになっていたのだろう)の持続が辛くなり、「お願い。笑いを入れてくれ」などと勝手なことを思うシーンもあった。しかし、それでも不思議と心地よい。すごい舞台だった。

カーテンコールのイチ場面

老人ホームなどの施設で演劇をやる。盛り上がる。その後、「演劇、楽しかったですか?」とおじいさん、おばあさんに質問すると「演劇?そんなのあったっけ?」と既に忘れられている。最初の頃はショックだった。
しかし、忘れてしまう認知症の方にも「楽しんだ瞬間」はあるのだ。それに気づいたとき、気持ちが少し楽になった。

今年の9月、僕の故郷である養父(やぶ)市で開催された「老いと演劇のワークショップ」に参加した。そのときのワークショップ講師・菅原直樹さんの言葉だ。

菅原さんは劇作家、演出家、俳優、介護福祉士でもある。その菅原さんが岡山で設立した劇団が「老いと演劇・OiBokkeShi」。看板俳優は、認知症の奥様を在宅で介護する岡田忠雄さん(97歳)。認知症ケアに演劇的手法を活用した「老いと演劇のワークショップ」を全国各地で展開されている。

その「老いと演劇・OiBokkeShi」の舞台「レクリエーション葬」が、2023年10月22日(日)ロームシアター京都で上演された。主演はもちろん岡田忠雄さん。


9月に参加した「老いと演劇のワークショップ」がとても印象に的だったので、僕はワークショップ後即チケットを買っていた。
この日、京都の街は「時代祭」で一段とごった返していることを知らずに、神戸からのこのこ出かけた。

さて「レクリエーション葬」
物語の主人公は、老人ホームに入居している97歳の岡谷正雄(演じるのは97歳そのままの岡田忠雄さん)。岡谷さんは「命を懸けることができるレクリエーション」を欲している。その岡谷さんの希望に対して、介護職員が提案したのは「生前葬」だった。
それから岡谷さんは「月に1度死ぬ」ことになった。本気の演技を求める岡谷さん、それに応えていく介護職員。そして、半年が経った時、とある介護職員の悩みは募り、新しい入居者・認知症の老婦人が現れる。。。

観客は生前葬のイチ参加者目線で物語の進行を観る。
物語冒頭で目に写った老婦人を演じる女優さんの歩く姿がとてもリアルだった。そして、そのまま僕の母(認知症です)の姿と重なった。とたんに僕の気持ちは物語の中に落ちて行った。

それにしても、岡田忠雄さんが本当にすばらしい。97歳であんな本気な演技ができるなんて。その姿が絶妙過ぎてものすごく繊細な笑いと涙を経験させていただた気がする。

9月の豊岡演劇祭ではワークショップの翌週は平田オリザさんの青年団プロデュース公演「馬留徳三郎の一日」という認知症を扱った舞台を観た。これもよかった。

僕は「アート」とか「クリエイティブ」とか、なんとか言われると胡散臭く感じたり、背中を向けたくなる悲しきへそ曲がりオジサンになっている。しかし、9月から参加したり、観たりしている演劇はとても興味深い。「食わず嫌いだったかな」と反省中。

ということで、11月に京都で開催の「老いと演劇・OiBokkeShi『レクリエーション葬』関連ワークショップ」に申し込んでみた。定員15名。申し込みが定員越えた場合は抽選。今日の様子だと定員越えは間違いない。当選するといいな。



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