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ドラマ『燕は戻ってこない』最終回 | 女であることの不幸と幸福、弱さと強さ

ドラマ10『燕は戻ってこない』が最終回を迎えました。

本当に、女はなんて面倒で、理不尽で、弱くて、
でも同時に、なんて強くて、おもしろくて、幸福なんでしょうか。


原作は桐野夏生の『燕は戻ってこない』。


原作もめちゃくちゃ面白かったですが、ドラマも期待通りでした。


原作に忠実ながらも、出会いのシーンなどドラマチックさも加えつつ、かと思えばリキが1人汚れた下着を洗うシーンなど女であることの悲しみをぞっとするほど感じるシーンもあり、初回からラストまで登場人物3人がどんな選択をするのかハラハラさせられました。


原作未読の夫(コメディ好き)は1話を見終わった時に
「……何か、すごい重いね……いやー、重かった……」
と繰り返し言っていて、
「これはもうリタイアかな、この先は1人で見ないとかな」
と密かに覚悟したのですが、2話目以降も予想外に夫から「燕見る?」と声をかけられました。
つまりは、女性だけでなく、男性にとっても興味深いドラマになっていたのだと思います。


主人公は、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ(石橋静河)。
リキに代理母を頼むのは、自分の遺伝子を受け継いだ子が欲しいと望む著名な元バレエダンサーである基(稲垣吾郎)と、その妻である悠子(内田有紀)。

原作もそうでしたけど、見ているともちろん基にイライラします。
お金も才能も容姿も他の人より恵まれているとこんな人間ができあがってしまうのかと言うくらい、基は驚くべきナチュラルさでリキのような人間を蔑み、40半ばでも母親の意見を素直に聞き、妊娠することができない妻の前で自分の精子が元気であることを無邪気に喜びます。

ドマラを見て「……おい!どんだけお前無神経なんだよ!悪気がないっていうのがこの世で1番残酷なんだよ!!!」と基の言動にドン引きした人は多いと思うんですけど、基を否定しつつも何故か彼の気持ちもなんとなく理解できてしまうのがこのドラマの不思議なところです。

お金をもらって代理母を引き受けたにも関わらず別の男(しかも2人)と寝てしまうリキのことも、基と別れると散々言ってたにも関わらずリキが出産したとたん基と2人で育てると言い出した悠子のことも、理解できないのに、共感してしまう。


主人公のリキも正直めちゃくちゃなんですよ。
ずっと、ビジネスライクにしたい、産んだらすぐ終わりにしたいと言っていたのに、生まれたらなんだかんだと基たちに文句を言う。いくらもらっても割に合わないと言い出す。
私は機械じゃない、とか最もらしいことを主張するんですけど、基たちからしたら「え、それ今更言う?」ですよね。
そんなことこっちは1話から思ってたわけですよ。お前ほんとにそんなことしていいのか?この先好きな男ができた時に何て説明するんだ?と心配してましたし、リキ自身も散々悩んでました。
それでも劣悪な環境から抜け出したくて代理母を選び、基たちと契約し、出産した。
ちゃんと納得していたはずなのに納得いかなくなったのは、お金をもらって、周りの人にも恵まれて、生活が整って、その先の、次の欲が出てきたんだと思います。

もっと大事にしてほしいとか、必要としてほしいとか、労わってほしいとか、子供に自分が母親だと知ってほしいとか。


そしてリキは、誰にも言わずに双子の1人•ぐら(ほんとの名前は愛麿)を連れて家を出て行きます。


あのリキがですよ。
自分の生活でさえままらなかったリキが、お腹の子を「エイリアン」と読んでいたリキが、頼れる人もいない中でぐらを連れて出て行きました。


かつて上司の既婚者にいいように愛人にされ、
東京で付き合った男とは妊娠したら捨てられて中絶し、
毎日ちゃんと働いても毎日お金がなく、
汚れた下着をボロアパートで静かに洗い、
変なおっさんに女だからと舐められ、
お金のために代理母になることを決め、
行動を制限された腹いせに昔の上司とラブホに行き、
寂しさから故郷に帰るセラピストの男と寝て、
人工授精で双子を妊娠し、
つわりで苦しみ、
お腹に産後も消えない妊娠線ができ、
死ぬ思いで出産した直後に、子供には2度と会わないという契約書を書くように言われたリキ。


女であることの不幸はたくさんあります。
毎月の生理が面倒で、しかも辛い。
変質者に狙われる確率の高さ。
ムダ毛の処理。
圧倒的に弱いことへの恐怖。
女だけが妊娠するという現状。男は逃げられても、女は逃げられない現実。
子供を産む産まないが、仕事にダイレクトに影響してしまうこと。


生まれ変わったら、
人生が何度もあるとしたら、
男に生まれてみたいと私も何度か思いました。


それでも、女にしかない幸せもあるし、
女にしか味わえない幸福も、たくさんある。
圧倒的に弱い部分も持ちつつ、突然全てを跳ね返す強さも持っている。


リキがまさにそうでした。
彼女はお金がなく、男を見る目もなくて、同性から見てもどうしようもないところが沢山あります。
けれど、流され、結果搾取されるばかりだったリキが、ラストは子供を連れ去る形で安息の場所だったりりこの家を出たのです。


私より遥かに弱いと思っていたリキが、いつの間に私なんかを抜いてしっかりと1人で立っていました。


連れ去りなんて、もちろん正しくありません。
正しくないどころか、
戸籍とか保険証とか大丈夫か?
養育費もなしに育てていける?
自分1人生活するのもままらなかったのにぐらのことちゃんと育てられる?
って最低100回確認したい。


でも、めちゃくちゃ心配な反面、何の根拠もないんですけど、不思議と何となく大丈夫そうにも見えました。
もう東京という場所に固執する気持ちも、妙なプライドもなく、ただぐらと生きていこうと決めたリキなら、本当にぐらと楽しく生きていけるかもしれないと思わせてくれました。


リキ、ぐらを幸せにしてやってね。
やっぱり基たちのところに渡せばよかったなんて一瞬でも思わないで。いや、どうしたって思う瞬間は出てくると思うけど、それに負けないで。
辛い瞬間はたくさんやってくると思うけど、これからはぐらがいるよ。間違いなくリキの子供の、ぐらがいるよ。頑張るんだよ。
ぐら、幸せになってね。どうか男を見る目だけはリキに似ませんように!!!


飛び立ったリキが、どこかでどうか、ぐらと幸せになってほしい。
街中でこちらを振り返ったリキを見て、ふいに泣き出しそうな気持ちで祈りたくなったラストでした。


おしまい。


黒木瞳(基の母親)も最高に性格悪かったですよね。

ああん?お前それ本気で言っての?
誰かこの女に痛い目見せてやってーーーー!!!!
キィーーーーー!!!

ってなりました。

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