いちばん心に残っているドラマ『青い鳥』| 野沢尚が好き①
皆さま、脚本家で推理小説家でもあった野沢尚をご存知でしょうか?
中学生の頃に「尊敬する人の名前を書きなさい」という課題が学校で出て、堂々と「野沢尚」と書いたことがあります。(周りは「父親」とか「母親」と書いていて、あ、これそういう宿題だったの?と内心焦りました)
脚本では『眠れぬ森』『結婚前夜』で向田邦子賞、小説では『破線のマリス』で江戸川乱歩賞を受賞している天才。
野沢尚の脚本って不思議で(シナリオ集が何冊か出版もされているので是非ご覧ください)、ト書きがまるで小説みたいなんです。登場人物たちが何を思ってそのセリフを言っているのか、何のためにその行動を取ったのか、手に取るようにわかります。
計算され尽くした設定と展開に驚いた『眠れぬ森』も、エンディングで涙が止まらなかった『結婚前夜』も大好きですが、いちばん心に残っているのは1997年にTBSで放送された豊川悦司主演のドラマ『青い鳥』です。
『青い鳥』は、田舎の平凡な駅員•柴田理森(豊川悦司)が、愛した人妻•町村かほり(夏川結衣)とその娘•詩織(鈴木杏)と共に全国を逃避行するラブストーリーです。
……ラブストーリー?
あれは「ラブストーリー」だったのでしょうか。
物語の途中で夏川結衣は自殺。
夏川結衣の夫•佐野史郎への殺人未遂と夏川結衣の殺人の濡れ衣を佐野史郎から着せられ、しかも豊川悦司はそれを受け入れたことから懲役刑となり、なんと6年も刑務所へ。
仮出所し、保護司の待つ下関へ向かう列車で夏川結衣の娘に再会。母親の遺骨を埋めてあげようと強く頼まれて同行した結果、再び逮捕。
仮出所取り消しの上、さらに4年服役。
おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!!
なんつー話だよ!
ヒロインが自殺するとかナシだから!
主人公が捕まるのもなしだよ!
しかも2回って!
こっちの気持ちも考えてくれよ!!!
と今更ながら思います。
やっぱり、『青い鳥』は「ラブストーリー」なんかじゃないです。
幸せを求めて不倫の末に逃避行し、愛した女性を亡くし、その罪を償い、それでもまた同じ過ちを起こし、10年も塀の中で過ごした男。
駅員として実直に勤務し、近くには自分のことを好きな優しい幼馴染がいて、そのまま過ごしていれば穏やかな幸せがあったはずなのに、彼女と彼女の娘を幸せにしたいと全てを捨てた男。
寡黙で、いつも静かに佇み、時々ふっと優しい笑顔を向ける男。
そんな男を愛し、全てを捨てて逃げ出し、最終的に男を助けるために自殺した女と、その娘。
3人の逃避行と、その先に待っていた暗い人生と、その先。
愛の話だと言われれば確かにそうなんですけど、「ラブストーリー」というジャンルで括ってしまうにはどうしても違和感があります。
愛だけじゃなくて、幸せとか罪とか憎しみとか運命とか、そういうものの全て。人の業みたいなものが描かれたドラマだったと思います。
辛いシーンが多いドラマでしたが、だからこそ、柴田理森と町村かほり•詩織が過ごした穏やかな時間は本当に愛おしく、こんなに時間が経った今でも思い出すと胸が締め付けられそうになります。
ドラマを見ていた当時はまだ中学生くらいだったので、特にドラマの後半は見ているのも辛かったです。
ようやく仮出所したというのに、詩織に強引に旅に付き合わされている理森を見て、何度「また捕まっちゃう……!もうやめて!」と声に出したことか。(しかもあんなにかわいかった詩織が、めちゃくちゃ目つき悪くなってて悲しかった……)
それでも理森は詩織に最後まで付き合うと決め、再び追われる身となっても詩織のそばにい続けます。
そして逮捕。主人公の逮捕2度目。
もういいよ涙!!!!!!!!!!!!!!!
いっそ出会わなかった方がよかったんじゃない?と当時の私は思いました。
町村かほりと詩織に出会わなければ、理森は平凡だけど穏やかな幸せを手に入れ、好きな駅員の仕事をしながら男手一つで育ててくれた父親を悲しませることもなかったわけです。
アラフォーになった今でも、出会わない方が幸せだったんじゃない?という気持ちもあります。
でも、出会わない、なんて運命はないんですよね。どうしたって出会ってしまう運命だったんだと思いますし、それが運命なんだと思います。
あの、理森が駅員として働く清澄駅に、かほりと詩織が降り立ったシーンは本当に素敵でした。
かほりが死んでしまうまで、理森の運命の相手はかほりだと思っていました。(視聴者みんなそうだったと思います)
でも、後からそのシーンを見ると、トン!と最初に駅に降りたのは詩織なんですよね。
町村かほりも確かに柴田理森の運命の相手だったと思います。
でも運命の相手は1人じゃなくて、運命の相手がいなかったら出会わなかったもう1人の運命の相手、最後に結ばれる詩織が、かほりより一瞬早く柴田理森と出会ってるんです。
詩織が駅に降り立ったあの瞬間は、これから起こる「運命」が始まった瞬間でした。
それにしても柴田理森の豊川悦司はかっこよかった。(そして佐野史郎は怖かった……)
豊川悦司のあのかっこよさ。最近の俳優で言ったら誰にあたるかなと考えてみたんですけど、いないですよね?
細くてすらっとしてるんですけど、なんとなく男らしくて(今こういう言い方いけないんですかね?でも「たくましい」っていうのも何か違うんですよね。別の言い方……うーん……知らん!男らしいんじゃ!)。
寡黙で、真面目で、静かな役をやっているのに抜群の存在感があって、憂いがあって、妙な色気もある。
そもそも、理森みたいな男の主人公って最近のドラマでは見ない気がします。
やけに元気がよかったり、変人だったり、熱血だったり、天才だったり、少女漫画の王子様みたいだったり……っていうわかりやすいキャラクターが主人公には多いですよね。
いえね、そういうのももちろんいいんですよ。イケメンの天才とか、私も大好きです。
でも、主演にあの寡黙な男を持ってきて、それでも物足りないと感じさせない豊川悦司はすごかったと改めて思います。
これでもかというくらいの不幸が続いた暗い先に、幸せが待っていてよかった。
自分を犠牲にし、自分は幸せになる資格はないと思っていた理森が、幸せになることを選んでくれてよかった。
ああ、また『青い鳥』が見たい。
みなさん是非野沢尚の脚本と併せてお楽しみください!
ほんとにもはや「小説」です。
野沢尚が好き②もあります!