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ベルリンは晴れているか 深緑野分

表紙が印象的でずっと読んでみたいと思っていた小説です。

でも、カタカナが主人公で登場人物が多い小説って苦手な私です。そういえば高校の世界史はさっぱり頭に入ってきませんでした。巻頭にある登場人物一覧を、何度も見直しながら読んでいきました。

1945年7月のベルリンが舞台となっています。第二次世界大戦後のドイツ・ベルリンという設定の小説でした。

音楽家の「クリストフ」が何者かに青酸カリで殺害されるところから物語が始まり、主人公である「アウグステ」の視点で話は展開していきます。

大戦後の混乱が描写されていて、まさにベルリンの空にどんより雲がかかった風景が広がっていました。ストーリーも去ることながら、詳細な戦後の描写がとても印象的でした。

ストーリーも非常に面白く、最後にはあっと驚く展開が。結局私には最後まで全く犯人はわかりませんでした^^; 分かる人にはわかるのでしょうね。

幕間には大戦中のナチス、ヒトラーによる独裁が描かれています。当時のドイツ国内がいかに異常な状態であったのかがわかります。日本も戦争に向かっていくときは、こんな状況だったんだろうなーと思いを巡らせていました。人間一人ではどうにもならず、社会・環境がそういった戦争や暴力に人々を向かわせてしまったんだろうな、と心が痛みました。

今まで日本の終戦の物語は読んだことはありましたが、ドイツも露、米、仏、英に支配され、各国の人たちが入り乱れて大混乱していたのですね。敗戦国は同じく大変な状況であったのだと実感しました。

そんな独裁や戦争の中でも心は自由だということが実感されるフレーズがありました。

「しかしねガスティ、どれだけ絞め上げられようと人の心は自由なんだよ」

どんなに絶望があっても、心が保てている人が生き延びたということは言われていますね。あとは、

「アウグステはどんなに学校で窮屈な思いをしようが、口を滑らせる危険にふるえようが、家に帰って本を開けば文学の向こう側からの未知の風に吹かれ、胸いっぱいに空気を吸い込めた。物語は裏切らない」

ほんと文学は素晴らしいなと思います。どんなに嫌なことがあってもこの物語の中ではそれは忘れられる、まさにそのとおりです。
そして、自国ドイツを

「この国はもう随分前から沈没しかけの船だった。船室にゆとりをもたせるために不要な客は海に放り込まれた。客は決して船室から出なかった」

終戦間際のドイツを沈没船に例えていて心に響いた。とても読み応えのある、心に響く本でした

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