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202309とつとつダンスin鹿児島WSレポート

「あわせる」こと——感じる、考える、反芻する

和田真文(<とつとつダンス>制作チーム)


<とつとつダンス>が鹿児島に初上陸!9月21日から24日まで、砂連尾理さん&制作チームは鹿児島県で施設訪問&ワークショップを行ってきました。

普段は関東圏内で生活している私たちに力を貸してくださったのは、現地在住の堤玲子さん(合同会社UDラボ代表)、足立さとみさん(合同会社UDラボ)。鹿児島で障害のある方や高齢者の旅行支援を行っているお二人です。

サービス付き老人介護ホームやグループホーム、ホームホスピスなどでスタッフの方々からお話を伺い、そこで生活する方々の一端を覗かせていただくことができました。また今回、(認知症者を対象とするのではなくあえて)一般から参加者を募っての<とつとつダンス>ワークショップも開催し、30名超の方にご参加いただきました。

制作スタッフである筆者も参加したこのワークショップでは、会場の端から端まで列になってひたすらゆっくり、足の裏と畳を合掌させるように歩くことからスタート。足の骨のゴツゴツしたいびつさ、エアコンのゴーっという音、畳の匂いひとつひとつが次第に立体的に浮かび上がっていきました。一歩を踏み出すのが、こんなに不自由で、長く感じられたのは初めての経験でした。

私たち<とつとつダンス>制作チームは、今<とつとつダンス>とは何なのか、その核心がどこにあるのかを、自分たちの言葉で必死で言語化しようとしています。ワークショップを先導する砂連尾さんに、どんなことを意識しているのかミニインタビューと話し合いを重ね、そこから紡ぎ出された言葉を練って伝えることで、参加いただくみなさんと、そのかけらを共有したい。鹿児島滞在中のある日、砂連尾さんから出てきた言葉が「呼吸をあわせる」でした。息を合わせるでもなく、呼吸に耳を澄ませるでもなく、相手の呼吸にあわせるとは一体……。

今回のワークショップでも、ペアで向かい合って相手の目を見ながら黙って動くというお題が出されたときに「呼吸をあわせてみてください」という言葉が砂連尾さんから飛び出しました。まず、初対面の方の目をじっと見つめつづけるだけでも難しい。しかも会話はNG。気恥ずかしさに、思わずフフフと声が漏れ出します。相手が息を吸って吐くタイミングはわかるような気がしたのですが、同じペースで呼吸をしようとしても、「呼吸をあわせる」のとは、ちょっと違う気がしました。身体的な距離は縮まらず、違和感を覚えるばかり。

会場では、シンガポールで開催されたワークショップの映像を視聴したのですが、頑なに砂連尾さんと目をあわせることを拒み続ける参加者の姿や、逆にひたすらにこやかに見つめ合う参加者の姿に、笑い声が溢れました。初対面の人にひたすら目を合わせられ、見つめ続けられる時間を想像してみてください。

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しかし思い起こせば、私にも、限りなく他人と身体の距離が近くて、かつ無言でも不思議と平気なときがあります。声がでなくなったときです。伝えたいことは山ほどあるのにどうにも声帯が震えない症状が出てしまい、口を動かすのもしんどい。そんな症状になったとき、周囲の動きがスローに感じられ、私自身は相手の目を見つめていてもあまり違和感なく、むしろ、見つめている状態が心地よいと感じるのです。その人の身体のパーツを見つめているというより、相手が声を発したり、何かしらの動作をしはじめる瞬間を見つめているような感覚があります。

鹿児島での施設訪問でたまたま顔を出した利用者の方が砂連尾さんと<とつとつダンス>をやってみる機会がありました。最初は硬い表情をなさっていたその人が、砂連尾さんがただ斜め横に座っていただけ(に見える)のわずか5分ほどの時間で、段々と手を動かし、指先を触れ合わせ、にこやかな表情になっていく様子を目にしました。おそらく砂連尾さんはこの間に「呼吸を合わせて」いたのだと思いますが、その雰囲気は、どうも、私が声が出ないときに体感しているものと似通っているように想像されます。

もうひとつ。

波乗りをするためには、良い波を見極めて、波長に漕ぎ始めを合わせる必要があります。力を抜いてただ波を眺め、ぼーーっとできれば、波と一体化する瞬間がやってくるとか。私がシーカヤックでたまに上手に波に乗れるときは、そんなとき。草陰に潜んで獲物を狙うチーターになったような気分で気配を消し、ただ浮いているだけ。そうするとシューっと何の力も入れずに、波の上を走れるのです。砂連尾さんの「呼吸を合わせる」は、私にとっての「自分の気配を消す」感覚にも似ているのかもしれません。

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そんなことを考え始めたのもワークショップが終わってからのことで、最中はこれがあっているのか、どうなると「呼吸を合わせる」ことになっているのかもよくわからず、不思議な感覚だけが残りました。

ワークショップ後のアンケートでは「他の参加者の方々が、どんなことを感じたのかもっと話し合いたかった」という感想を多くいただきました。きっと私以外の方も、これは一体何なのかをもっと確認したい、言葉にしたいという気持ちになったのではないでしょうか。

正解はないのでしょうが、それぞれの立場での<とつとつ>を考えるためにも、一スタッフとしても、参加者としても、次回は話し合う時間を多く設けたいと思うようになりました。

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