残酷の愉しみ

大相撲、高校野球、プロレス――この三つが日本の誇るべきエンターテインメントだと思います。共通する点はなにか。「残酷」「バイオレンス」「いいかげんさ」ではないでしょうか。大男が血を流しながらぶつかり合い、死に至ることもある。同じ高校生なのに結果は十数点も点差がつく。行司、審判、レフリーは頼りない(プロレスの場合はレフリーもレスラーですから、ちょっと違いますけど)。スポーツの枠を超えて楽しませてくれます。 

自分なりに忘れられないシーンを思い出してみました。大相撲では双羽黒VS小錦。一度も優勝せず横綱になり、北尾から双羽黒となったものの完全にヒール。彼が悪いわけではないですけどね。横綱としては、あまりいい成績を残していなかったと記憶しています。すいません。この対戦がいつ、どの場所で行われたか覚えていませんが(youtubeで見ることができます。日時はありませんでした)、土俵際まで押し込まれた双羽黒が逆襲。寄り切りで小錦に勝ちました。敗れても小錦の手は横綱のまわしをつかんでいます。その手を振り払って小錦をにらんだ双羽黒の表情といったら…。殺るか殺られるかの世界を垣間見ましたよ。北尾時代に対戦した小錦が、さばおりをくらい両ひざを壊すなど因縁もありましたね。

高校野球は、応援する地元の人からすれば悲惨な試合も多いです。20点差なんてラグビーですよもう。ただ一ファンからすると、球児には悪いですけど、あまり印象に残っていません。大会中、何試合かはこういうゲームはありますから。それより誤審です。これは2002年の試合。高校名はふせます。もしかしたら自分の勘違いかもしれませんから。映像も見つけられませんでした。中国地方のチームと四国地方のチームの対戦でした。9回の攻防でした。接戦で同点。2ストライクから中国地方のチームのエースが投げた球は相手のバットをかすりキャッチャーミットへすっぽり。これ三振ですよね。しかしファールの判定。NHKの実況は声を失っていました。結局、四国のチームが土壇場で引き離し勝利しました。高校野球の審判はボランティアみたいなものですからね。あまり追及するのも、どうかな、と。逆にこのゆるさが高校野球をスリリングにする一因なのかもしれません。皮肉じゃないですよ。

さてプロレスです。大相撲、高校野球は数十年見ています。それ以上長いつきあいなのがプロレス。40年以上のファンです。最近は熱が冷めかけていますが。ベストバウトは1986年大阪城ホールでの前田ー藤波です。これしかない。一生ものです。このころの藤波はすごかった。旧UWF戦士を相手にアルゼンチンバックブリーカーを披露したり。前田戦でもジャーマンスープレックスやラリアートなどを出していました。伝説ともいえる前田のニールキックでの大流血。そしてダブルノックアウトという結末。プロレスがショーとか八百長とかどうでもいいじゃないですか。二人のファイトを見れば、そんなもの吹き飛びますよ。いまのプロレスにこういうファイトあるのかな~。プロレスは常に“仮想敵国”を作らなきゃだめなんです。それが新日本の「キング・オブ・スポーツ」であり、全日本の「シュートを超えたものがプロレス」なんです。MMAに挑戦して負けてもいいじゃないですか。プロレスラーが10回闘って1回でも勝ってみなさい。「やっぱりプロレスは強い」ってことになりますよ。本当のプロレスファンは優しいんですよ。

なんか長くなりました。つまり日本人というか、どんな人間もSとMがあるように残酷を好むときもあれば、被虐感が楽しいときもある。それを前面に打ち出すのがエンターテインメントじゃないんでしょうか。本当は俳句、とくに自由律俳句の“過剰”について書こうと思っていたのですが、疲れたのでまたこの次ということで。

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