見出し画像

俳句鑑賞ログ②

かしらんと男が言って冬の晴/佐藤智子

「かしらん」と口にする男で最初に思い浮かんだのは漫画ののび太くん。昔の小説や漫画にはけっこう「かしらん男子」がいる気がする。のどかな感じがして好き。ドラえもんの青さと冬の青が重なる。


一枚の布のごとくに冬景色/鶴岡加苗

ざらざらしてどこかあたたかい手触りの布地。色味は少なくてコントラストも穏やかな大きな布をイメージした。目の前にあるの草も木も山も枯れて寂しい風景に、手触りのある"冬という大きな布"が覆いかぶさっているような優しい質感を感じる句だ。


十二個の目が滝壺を見てもどる/鴇田智哉

滝壺に触れることは難しいし、滝壺を聞き分けることもできない。この滝壺の存在は見るしかできない。十二個の目が滝壺を見て、帰って行く。滝壺が受け取るものは視線だけ。そして滝壺も十二個の目を見ている。怖い景ではない。よくあることなのだ。


おいおいと泣いてけろりと夏帽子/三輪初子

おいおいと激しく泣けば泣くほど、引きずらないのである。案外けろりと「それでは」とお別れできたりするのである。その後も突然涙が戻ってきてまた泣いたと思えば、すっきりして歩き出す。案外ずっとその繰り返しなのだ。夏帽子が愛らしい。


蝶の影ときをり蝶を離れけり/岩上明美

まるで影が意思を持って蝶から離れているような不思議な景。色づいた蝶と色のない影がまるで二羽の蝶のようにひらひらと飛びあっている。「ときをり」と言うことは作中主体はしばしこの蝶と影を見つめているのだろう。心に色々なものがちらちらする。


昼の月あれラブホテルだったのか/木田智美

街道沿いに高速沿いにひょいと現れる変な建物、だいたいラブホテル。自由の女神もゴジラも日常の中に普通に溶け込み今更特に何とも思わない、それがラブホテル。あっけらかんとした日常の風景、あっけらかんとした薄い昼の月。この口語体がスキ。


この家も遺影は微笑ささめ雪/池田澄子

本当は隣に誰かいたのかもしれない。本当は怒っていたのかもしれない。本当はただ眠かったのかもしれない。本人的には満面の笑だったのかもしれない。サイドストーリーは削ぎ落とされ、ささめ雪の奥に色んなものが霞んで消えて、優しい微笑が残る。


本を捨て本棚を捨て虫時雨/藤井あかり

引っ越しだろうか。大量にある本を一冊ずつ吟味しつつ、もう一度開いてみたり、また迷い出したり、思い出に浸ったり。豊かでありながら苦しい時間。最後には空っぽの本棚を捨てる。自分の中も空っぽになった気持ち。虚しさと清々しさ。虫時雨が響く。


寝ころべば墜ち始めたり銀漢へ/姫野理凡

布団に寝転んでも何も感じないのに地面(シートは敷く)に寝転んだ時のあの一瞬感じる浮遊感は何だろう。視界を埋める空の広さがそれを感じさせるのか。非日常感によるものなのか。それとも、やっぱり引っ張られているのだろうか、目の前の銀漢に。


鳥葬にまづ駆けつけの小鳥来る/岡田一実

「小鳥来る」は個人的にとても好きな季語である、が、なんだろう、なんていうか、この句はあまりに怖くて泣いてしまった。鳥葬される状況を想い震えたのか、それとも小鳥を想って泣いたのか。どちらにしてもそれは私のエゴなのだ。とても好きな句。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?