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不登校先生 (38)

退職。そう決めてしまうと。

落ち込む気持ちではなく、安心した気持ちになれた。

もう、あの現場に行かなくてもいい。

そのことがはっきりと決まったからだ。

今回、うつになってしまった一番の要因は。

間違いなくあの現場での4月の状況、そこにいた職員との軋轢であると、

この3か月ほどの自分の状態を振り返って、確信していた。

なので、あの職場に戻らなくてよくなったという事実は、

自分の心の中でドスンと乗っかっていた山のような大岩のストレスが

さらさらと消えていったかのような心の軽さを感じさせた。

ああ、あの学校には、戻らなくていいんだ。

そう思えただけで、すんなりと睡眠がとれた。

4時間も続けて眠ることができた。

ちょっとしっかりお腹に入れたい。そう思った。

自転車をこいで近くの食堂まで食べに行った。

野菜2倍のちゃんぽんを食べた。スープまで飲みほして食べた。

そして昨年度、一つ前の職場で相棒だった先生から届いた

結婚式の招待状。迷わず「出席」に〇をつける。

気持ちがぐんと軽くなり、この3か月ほどの鬱屈の反動かのように、

体を動かしたくなってソワソワする。

少しウキウキも交じりながら。

実はこれも、うつ症状。躁状態というものらしい。

4月からずっとうつ状態、どん底をはいつくばっていたテンションが、

見通しが明るいと感じることをきっかけに、

反動ごと一気にばねが振れたみたいになった状態なのだそうだ。

直前までの暗く落ち込んだ状態からあまりにも、

自分のアクティブさがかけ離れていて、ちょっと正常じゃないと、

また今度も、もう一人の僕は冷静に見守ってくれていて、

おかげで、診察に行っている病院においてある冊子をもう一度読んで

「あ、これ元気になったやつじゃない」と判断できた。

よかった。今の状態がおかしいとブレーキが踏めた。

そう思っていると、案の定夜、今度はすごく落ち込んだ気分になった。

心の底では、もう一人の僕と、僕自身がとつとつと話している。

「よかったね。大きなストレスがなくなって。」

「ありがとう、うっかり治ったと勘違いするところだった」

「いやいいんだよ。気付いてくれてよかった。」

「次もうっかりするかもしれないから・・・」

「その時は任せとき。ちゃんと見てるから」

「ありがとう」

腐海の底のような心の景色では、大きな巨木の石たちが、

崩れ落ちて、砂になって、落ちた後に、日が差し込むように、

心の中の空っぽは少しずつ、明るさを取り戻しているようだった。

↓次話


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