不登校先生(30)
風薫る。
5月と言えばどんなイメージだろう。
皐月・メイ。トトロの姉妹。
こいのぼり、端午の節句、ゴールデンウィーク
毎日空が舞うような雲で彩られて、
若葉の黄緑だった木々の葉は、日に日に力強い濃い緑になっていく。
命が萌ゆるイメージ。
15年間小学校で働いていた町では、5月の下旬が運動会。
競馬の祭典「日本ダービー」と、運動会が同じ日になるのが、
5月の印象だ。
ゴールデンウィークが終わると、働いていた小学校では、
運動会の練習が始まり、ゴールデンウィークも休まずに
踊りの振り付けを練習して、お手本ができるようにする。
先生たちに休みはないなと思いながらも、
子どもたちにモチベーションを高くつかませるように
工夫を考えて、気付いたらゴールデンウィークが終わっている。
それもまた五月の印象だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
住んでいる町は、働いている町とは違うので、
当然学校で働いていた頃は知りもしなかった。
ああ、自分の住んでいる町では、中学校が体育祭なのか。
病院に通う途中、自転車で通る道。
体育祭の練習と思われる、スピーカーの指示が聞こえてくる。
そうか、うちの町だけじゃないんだな。
住んでいる町の小学校は、秋の運動会だと、
たてな君からは聞いていたが、中学校は春、五月なのか。
ひと月ほどしか現場から離れていないのに、
懐かしく感じる、独特の拡声器での指示。
今年、いけなくなった現場で、何が起こなわれているかなどは、
イメージは全くできないけれど、
昨年度受け持った子たちが、どんな運動会になっているのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、
今日も、電車に乗って病院に通う。
・・・特急列車待ち合わせのため6分停車します・・・・
病院に通う電車は、通勤時間をちょっとずらしている。
待っている間停止している電車は、がらんとしている。
通う電車が通勤時間だったとしても、だれも僕のことは知らないので、
気にする必要はないのだけど、
心がうつになると、人混みがすごく苦手になった。
電車でだいぶ近くに多くの人が立たなきゃいけない空間が、
もう、どうしようもなく、めまいがしてしまいそうなくらいに、
きつく感じてしまうようになった。
そのため、ちょっとずつ時間ずらし始めて、5月の半ばを過ぎると、
がらんと空いた時刻の電車で、病院に通うようになっていた。
人が少ないと、周りの景色に少し目を向けられる心の余裕も出てくる。
五月、運動会、あの子たちは今年は念願の黒法被を着て、
去年の時点でもうカッコよすぎたソーラン節を、ビシッと踊るのかな。
・・・・・・・・・・・・・・
「失礼します。ととろん先生でいらっしゃいますか?」
「?」
↓次話
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?