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49.生命保険の営業の洗礼を受けたはなし

2007年10月に今の会社に入社し、1カ月間、東京や札幌で研修を受けました。


生命保険という商品は、特殊な商品です。
他の商品はたいてい現物が存在して目に見えますが、生命保険は目に見えません。
他の商品は買ったらすぐ使いますが、生命保険はたいてい何年も使いません。
他の商品は欲しいと思った時に買いますが、生命保険はそこまで欲しいと思っていない時に買うことが多いです。
欲しいと思った時にはたいてい買えない(加入できない)商品です。
「晴れた日に傘を買うようなもの」と表現されることもあります。
こうした条件を聞くだけで、生命保険の営業は簡単ではないと想像がつきます。

実際、ものすごく苦労しましたし、今も難しいと思っています。
営業経験のない僕が、そんな難しい仕事に就いたのは、「生命保険業界を一緒に変えよう」と支社長に熱く語られたからです。


この「生命保険業界を変える」とはどういうことなのか?

生命保険には次の3つの「ない」が起きていると教わりました。
日本人の9割が加入しているのに、
①どういう仕組みなのか理解している人があまりいない
②自分が加入している生命保険の中身がよく分かっていない
③自分に合っているという自信を持っている人が少ない

この3つの「ない」は、自分にも当てはまることでした。
それは3つの典型的な加入方法の1つに自分も該当していたからです。

18歳の時にオカンに呼ばれて契約書にサインしましたが、内容を知らないままサインしました。
生命保険の加入の仕方の典型的なパターンの1つは、このように親に言われるまま加入するケースです。
加入した時の支払いは親であり、保障の中身に関心を持っていませんでした。

2つめのパターンは、親族や友人からお願いをされて付き合いで加入するパターン。
これも付き合いなので月いくら払うかは把握しているものの、肝心の保障の中身に関心がないケースが少なくありません。

3つめのパターンは、職場に「生保レディー」と言われる方が昼休みなどに毎日現れ、根負けして加入するパターンです。
僕もメーカーに勤めている時に毎日来られている方がいました。
合コンの約束と引き換えに話を聞いて欲しいなんて言われたこともあります。
この場合も、いくら払うかの保険料こそ把握しているものの、肝心の保障の中身に関心がないケースが少なくありません。

3つのパターンとも言えるのは、月いくら払うかという保険料はわかっているものの、肝心の保障の中身を把握しているケースが少ないのです。
年間数万円~数十万円、一生涯で数百万~数千万円も支払うものなのに、中身をよく理解せずに加入している。
しかも、それは万が一の時の自分や家族を守るためのとても大切な目的なものなのに。

関心がない状態で加入した保険は、自分に合っていると自信を持って言えるものではありません。
そんな方が病気になったら、本人と家族が大丈夫だろうかと心配されるのです。
そんな方が突然亡くなったら、残された家族がこの先やって行けるかと不安になるのです。
生命保険は万が一の時にあんしんして生活できるようにするために加入するものなのに、不安なものになってしまうのです。
そして、その時になって中身を確認して合っていなかったことに気づいても、もう遅いのです。

なぜ生命保険がこのような商品になってしまったのか?
それは、生命保険の営業マンが、お客様にいい印象をこれまで与えてこれなかったことにあるのではないかと思います。
実際、僕が生命保険の営業に転職したと聞いて、「よりによってなんで生命保険の営業なんかにしたの?」と言う方が少なくありませんでしたから。


ただ、そう思われている業界だからこそやりがいがある。
こうした日本の生命保険業界の状況を変えよう、あるべき姿に変えようと、1カ月の研修を終えた僕はやる気に満ちていました。

ところが、売り出して間もなく、事前に聞いていた通り大きな壁にぶち当たります。

話を聞いて欲しいと友人・知人に電話をすると、ことごとく断られるのです。
親友だと思っていた友人に、心無い言葉をかけられたこともありますし、ある後輩には断られただけでなく、内藤さんから保険の勧誘電話があるから気を付けた方が良いと事前に他の後輩に連絡を回されたこともあります。

僕の場合は、「先輩のおっしゃることは何でも聞きますよ」と、二つ返事でOKして話を聞きましたが、それが特殊なケースであるということを、身をもって経験しました。

それが何度も続くと、これまでの自分のこれまでの生き方を疑うようになってきます。
一方的な自分の片思いで付き合いをしてくれていたのではないか、と思うようになり、気が滅入って来ます。
そうすると、仕事が辛くなり、笑顔が出なくなり、話を聞いてもらえた人に対してもパフォーマンスが低下し、ご契約をお預りできないようになり、さらに気が滅入るという悪循環に陥るようになりました。


そんな悶々とした日々を過ごしていたある日、支社長が温泉付の飲食ができる施設に誘ってくださいました。

ジャスマックホテル

まず二人で温泉に入りました。
温泉に入りながら、支社長にどんな商談をしているのかヒアリングを受け、アドバイスされるかと思いきや、ただそばにいらっしゃるだけで、「あー、ないちん気持ちいいなぁ」と、ポツリとつぶやかれるぐらいでした。


その後、休憩室でつまみを食べながら、一緒にビールを飲みました。

ビール

そして、堰を切ったように僕から支社長に状況を話し始めました。


支社長は僕から発言するのを待っていらっしゃったようで、じっと耳を傾けてくださっていました。
そして次のようにおっしゃっていました。
ないちんのやっていることは間違っていない。
 教えたことをきっちりやっている。
 それでも話を聞いてもらえないのは、ないちんがどんな姿勢でこの仕事に取組み、どんな話をするのか知らないからだ。
 みんなないちんのことが嫌いなわけじゃない。
 生命保険の話を聞くのが嫌なんだ。
 そんな状態にしたのは、これまでの生命保険業界だろう?
 うちはそれを変えるためにこの仕事をしているんだ。

 ないちんも変えるためにうちに来てくれたんだろう?
 辛くなったらいつでも話を聞くから、足を止めるな

涙が出るくらい嬉しい言葉でした。
すぐにでも動こうと思うくらい勇気が出る言葉でした。

ただ、同じやり方をしていてもうまく行く可能性は少ないだろう。
そう思って初心に返った時に、気づきました。
自分の想いが強すぎて、相手の立場になって考えていなかったことを。

生命保険の営業マンからの電話や誘いは、多くの方がうんざりしているのです。
だから、嫌がられるのが当たり前。
であれば、最低限相手の都合を考えた電話や声掛けをしなければいけないし、もっと言えば、内藤さんであれば生命保険の話を聞いてみようと思ってもらえる人にならなければいけないのではないかと。

メーカーにいる時、営業は契約を取るためにお客さんのご機嫌をとる仕事で、そこに自分の信念など存在しないつまらない職種とまで思っていたことがありました。
自分が営業という職種について、初めてそうではないことがわかりました。

信念は内に秘めておくもので、決してそれをお客様に押し売りしてはいけないのです。
その信念は、どんなに心無い言葉を投げかけられても、どれだけ約束を反故にされても、しなって元の形に戻る竹のように、ブレない心を維持するために使うものなのです。

そして、営業や心理学の本を大量に買い、一から勉強しなおすことにしました。

こうして、話を聞いて欲しいとお願いする営業マンではなく、話を聞きたいとお願いされる営業マンへの試行錯誤が始まりました。

(つづく)


次のはなし

50.奥さんとの出会いから入籍までのはなし
https://note.com/totoro0129/n/n6ee73675719c


<0.プロローグと目次>
https://note.com/totoro0129/n/n02a6e2bda09f

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