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映画 窓ぎわのトットちゃん 感想

私は子供の頃からの黒柳徹子さんファンだ。尊敬している。しかし、いやだからこそ、映画を観るかはとても迷った。

というのも、以前ドラマ化された物があまりにも酷かったからだ。脚本家の人、原作読んだ?読んでないよね??徹子さんやお母様の気持ちや人物像を全く汲み取れていない、本当に酷い物だった。良かったのは福山雅治の主題歌だけ。

ちなみに満島ひかりさん主演の方のドラマ「トットてれび」は素晴らしかったので、気になる方は是非。


以前のことがあるので戦々恐々としながら観た今回の映画だったけど、徹子さんの瑞々しい感性がよく表現されていて安心した。
言いたいことが無いわけではない。だけど、今回は徹子さんも納得の上のアニメ化の様子。どうせなら良いところに注目して感想を書き綴ってみることにする。

まず原作ファンとしては家での生活の様子が細かく分かったのが有り難かった!お母様がお嬢様だったことは知っていたけれど、「チョッちゃんが行くわよ」には質屋に通うエピソードもあるので、想像していたより生活が豊かで、当時の最新だろうと思われる品々に囲まれた生活が意外だった。こちらの監督のインタビューで「トットちゃんは庶民の子ではなく、山の手のお嬢様」とある、と。流石に庶民の子とは思っていなかったけど、こちらの記事によると徹子さんに当時のことを聞きながら描かれたようなので、この様な生活様式であったことはある程度信用して良さそう?


映画を観てからあのトースト焼いてたやつ、いいな…と想いを馳せている。あれで色々焼いたら美味しそうだよね〜。


そして、興奮したのは自由が丘駅前の商店街の詳細な様子!!原作を読んでも現場に行ってどんなに想像しても想像しきれなかったところがやっと見えて来たこの嬉しさときたら…!スタッフロールに「自由が丘商店街」と見つけたときはガッツポーズを取りそうになった。あの商店街の雰囲気、舗装されていない道路は写真や証言を元に描かれているのだろう。戦前を知らない世代としてはリアルな風景に胸が熱くなる。

トモエ学園の面影を求めて自由が丘へ行っては「戦前からありそうな木」などを探し歩き、トモエ学園から九品仏のお寺へ歩いた道はここで間違いないだろう…、この桜の木は戦前からあったに違いない…九品仏のお寺の埋め立てられてしまったボートの乗れる御池跡はこの公園だろう…など付箋を貼った本を片手に想像に想像を重ねて聖地巡礼していた身。九品仏のお寺の「流れ星が落ちた井戸」は検討をつけていた井戸とは別の様なのでまた探しに行きたい。


自由が丘 熊野神社
戦前からあるだろう場所。徹子さんも来たかも知れない。


戦前からあると思われる木々


電車のお教室に入ったときの嬉しさを表現したアニメーションが独特でとても良かった。新しい学校へのワクワクする溢れんばかりの感情をこんな風に表すのか!また、ここで音楽にめちゃめちゃ力入れてる…!と気がつく。打ち込みではなくオーケストラの豪華な演奏に驚いた。迫力ある、豊かな、出し惜しみのない演奏だった。これを観て「トットちゃんの独特な感性の豊かさ」を汲み取っている作品だ、とほっと胸を撫で下ろし、その後は映画に集中することが出来た。


トモエ学園は好きな課題から手を付けて、それぞれのペースで進めていいという授業方法をとっている。自分は国語の課題、隣の子は理科の課題、前の子は算数…と、てんでバラバラにやっていたことで、周囲が煩くても集中することが出来るようになったのではと著書では語られていた。その授業の様子を映像で観れたことも嬉しかった。「想像する」のと「実際」と「実際の話しを元にして描いた」では全て違うのだけれど、少しでも実際に近い状況を知りたいファンにとって、ひとつひとつの描写が嬉しい。前の学校と比べて、これならトットちゃんが自由にいられるだろう、という空気を感じられた。


散歩の授業は私の想像していたものそのものだった…!私の妄想は間違っていなかった。徹子さんがそれだけ豊かに書いてくれていたからこそだろう。畑が広がる長閑な風景。これぞ私が小学生時代から想像していた自由が丘。現代の煩くドブ臭い自由が丘を知ったときはショックだったな…。

原作を読み込んでいるのでジャンパースカートにうさぎのアップリケがある女の子と話すシーンですぐに「サッコちゃんだ!」と分かる。さながら同級生気取りだ。


トイレに財布を落としたエピソードを見ていると、どんどん服がウンコまみれになって行くので「原作では用務員さんに洗って貰ったと書いてあったけど、そういえば服はどうしたのだろう…」と今さら心配していたら校長先生の娘さんのミヨちゃんに借りたとお母様に話していて「なるほど〜!」とすぐに疑問が解消された。


よーく噛めよ、食べ物を〜♪
の歌を聴けたのも良かった…!ドラマのときには「本当にこのメロディーなのだろうか…?」としっくり来なくてモヤモヤしていたけれど、今回は「こうだったのだろう」と素直に思えた。ドラマと同じメロディーだった…?ドラマのメロディーも今回の映画のメロディーも思い出せないので、同じなのか違うのか分からないけど、今回の映画の歌声を聞いてやっと納得出来た。原作で病床の帰還兵に歌を贈る話があるのだけど、この歌を懸命に歌われたら確かに泣いてしまうな…。


そうそう、リトミックの感覚がやっと分かった!手袋をしてピアノを弾かないのと同じで、裸足になって身体でピアノを弾くように歩く…!あ〜なるほど〜〜〜〜!この感じか〜〜〜!!演奏のピアノも良かったのだろう、リトミックとは何ぞやと、理論は知れど掴めずにいたが、始めて少し齧れた気持ちだ。このシーンは小林校長先生の言わんとすることがよく伝わったお蔭で、原作の世界観がグッと深まった。ここでリトミックをしっかり見せてくれたことで、雨の中の泰明ちゃんとのシーンもよく伝わって来た。泰明ちゃんの励まし方素敵だった〜〜〜子供はどんな環境でも光を見つける逞しい力を持っているし、世界を美しく彩ることだって出来るのだと励まされた。「寒いし眠いしお腹が空いた」が当時の口癖だったと徹子さんは言っていた。お腹が空いた状態が続くと体温が下がって寒いのだと。そして、体の防衛機能が働くせいだろう、眠くなるのだと。そんな中でも励ますように歌を歌っていたら怒鳴られる世界。懸命に光を探すしかなかったとも言えるだろう。健気な子どもの空想の光が、眩しく美しかった。


そして、バイオリニストのお父様黒柳守綱さんの台詞「僕のバイオリンで、軍歌は弾きたくない」。

最初にお母様のチョッちゃんから、軍歌を演奏することで食料を貰える、という話しを聞いたとき、一度は頷いたお父様。ドラマでは原作の大事なところをあまりにめちゃめちゃに描いてたので、一瞬「あ、この映画も大事なところを曲げるのかな…」と不安になって身構えていたら……、美しいバイオリンでタイスの瞑想曲が流れて来て……まあ聴かせて来るんだこれが……!!!私は弦楽器にあまり興味が持てず、どうせ聞くなら管楽器の威勢の良い(分かりやすい)曲を好んでいたけど、最近になり弦も良いものだな…と気づいて来たところだった。劇中であることも忘れる程の美しい音色。お父様が弾き終わり、たっぷり余韻を残してから上記の台詞。
もうね…!!!!!
バイオリンを愛している、美しいメロディーを奏でる為に私はバイオリンを弾いているのだ、弾くのだというプライド!意思の強さ!美しい演奏の後だからこその説得力
お父様の決意が強く伝わって来て………このシーン一番好きかも知れない…。格好良かった…。

お父様関連で好きなエピソードをひとつ紹介したい。2019年6月15日の世界ふしぎ発見でウズベキスタンの特集をしたときに、ソ連からの引揚船で徹子さんのお父様と同じ船だったという方が現れた。なんでも、船内で皆が疲れ切っている所にバイオリンを持ったお父様が現れ、「何かリクエストはありませんか」と言う。生きるか死ぬかの中で過ごし、やっとの帰還船。興味を示す人が少ない中、誰かが「G線上のアリアだ」と言うと、お父様が弾き始めたと。すると、あまりに美しい演奏に「これは本物だ」と帰還兵たちは身体を起こし始め、演奏に聴き入ったそう。お父様が決して曲げなかったプライド、美しい演奏を奏でる為のバイオリンが帰還兵の心を慰めたのだ。

ちなみに見たかの様に語るが、この回は見損ねてしまい、家族から「こんなエピソードが流れてたよ!」と後から教えて貰った。めちゃめちゃ見たいんだよね、どうか再放送願いたい…。


そして、このバイオリンの演奏は一体誰が…?と検索すると、なんと!!!

マロさんこと篠崎史紀さん!!!!!

私ですら知ってるよ!!!な、なるほど〜〜〜???確かにNHK交響楽団バイオリニストコンサートマスターの大先輩の方の演奏を弾いて欲しい方って他にいないじゃないね!?あ〜なるほど素晴らしい配役……流石の説得力……弦の分からない者にも伝わる美しい演奏……素晴らしかった……。とりあえずマロオーケストラに行きたくなった。弦のことは何も分からないからこそ、良い物を聴くことから始めよう。

大石先生役の滝川カレンさんの徹子の部屋(2023.12/16)でのコメントにも感動した。
「徹子さん、元々すごい大好きで、自分がどうしたいっていうよりも、徹子さんの物語を最高なものにしたいっていう。何も…何ひとつ、もう爪も一個も傷つけたくない思いが一番最初にあるので、逆に言えば、自分じゃない自分で入りたいって思いました。」
う、うわあぁぁぁぁぁ😭😭😭😭😭😭😭😭
爪も、一個も傷付けたくない……!!こんな真摯な気持ちで演じてくれてるなんて、泣いてしまう…。滝川カレンさんのことはSNSなどで回って来る度に、いつも独自の表現で、自分の言葉で伝える様子を「いいな、素敵な人だな」と眺めていたから今回のコメントで完全にファンになってしまった。インスタ?で発信されていたレシピが回って来たときのことが忘れられないくて度々思い出し笑いしている。「肉が、ふぅやれやれ、と休んでいるところに、気がつく程度の塩をまぶします」みたいな文章だった。すごくない????私は感動した。なんて分かりやすくかつユーモラスに飛んだ表現なんだ…!声優としても、もちろん素晴らしい演技だった。徹子さんの物語に力を沿えて下さり、ありがとうございました。


まだまだ出て来そうだが、長くなったので感想はひとまず終りとしたい。表現が素晴らしかった。


最後に、先日偶然行けた洗足池の聖地巡礼写真でも載せておこうかな。


桜山
桜山
トットちゃんがロッキーと走り回っていたかも知れない


戦前からあったであろう松林もあった


映画に出て来た弁天様の橋
スタンプの下には小学生ふたりがいる。
トットちゃんのように楽しそうにはしゃいでいて癒やされた


戦前からありそうな木
戦前から変わってなさそうな風景
ボート漕ぎたくなったけれどスワンとかしかなかった


可愛い駅舎
どうしても人が映り込むのを雑な消し方をした


映画の感想を書いてみて、原作の「窓ぎわのトットちゃん」も、いつかちゃんと感想を書き出すべきだと思えた。語り合える人がいなくてAmazonのクチコミレビューを読んで慰めていたけど、感想を聞きたいのなら、自分から語るべしか。


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