『われら闇より天を見る』(クリス ウィタカー )
全体的に暗い雰囲気の作品。しかし、その闇の中で輝くダッチェスという少女の存在と、彼女を包む風景の描写が美しい。
また、様々な葛藤を抱えた警察署長のウォークと、どこまでも純朴な弟ロビン、ウォークの幼なじみで囚人のヴィンセント、不気味な存在のダークなど、その他にも多く登場人物が出てきますが、どの人も魅力的。
しかし何より輝くのは、ダッチェスの存在です。寂しさや悔しさを秘めた強さと隠した弱さ、その不安定さを包む弟や祖父・友人に対する気持ち。ダッチェスの感情がとても丁寧な粒度で描かれていると感じます。
海岸に面した田舎町の光景や農場の様子などの風景や、登場人物の人間性の描かれ方がとても素晴らしく、重苦しいテーマでありながらも、憂うつな雰囲気に陥らない良い作品です。
あと、強調したいのは、翻訳がすごくいい、ということ。英語が原文の作品に翻訳されている、という感じがしません。かといって、まるで日本語で書かれた本だと思う、という意味でもありません。
翻訳を通して、物語の世界に入り込むのではなく、物語の世界と私が直に触れているような感じがして、翻訳の存在を感じさせません。
作家も翻訳家も存在が透明になって、ただ作品と私だけが存在する。そういうふうに感じるこの作品が、私は大好きです。
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