誕生日

放課後いつものように外部の先生のレッスンに行くと、叱られた。「お前は人をイライラさせる天才だ」と。

人と喋るだけで、相手をイライラさせてしまうことは、家族や友人からも指摘を受けたことがあったから、直そうと努めていたのだけれど、指摘されるたび思う、辛い。

だって、イライラさせたいわけではないし、傷つけたいわけでもない。ただ、一緒にいる人と楽しい時間を共有したいだけなのだ。

レッスンが終わり、もみくちゃな心持ちで帰り路に着いた。

そういえば、今日誕生日だったな、、。自分への慰めも兼ねて、家の近所のコンビニでエクレアを3つ買う。私と弟と父の3人分。

家に着くと、父が弟を駅まで迎えに行こうとしているところだった。すれ違いざまに「晩ご飯買ってあるからね」と一言そえて、父は出掛けた。

リビングに入ると、食卓にお寿司と天ぷらが並べられていた。我が家は父子家庭で、ご飯を買って済ませることもしばしばあった。だから、たとえ手作りでなくても、忙しいはずの父が少しでもご馳走をと、スーパーに駆け込んでお寿司や天ぷらを買ってきてくれたのだ。

しかも、祝おうとしてくれてるのはすごく嬉しいのだけれど、待ちくたびれたのか父の皿だけすでに真っさらになっていた。そんな詰めの甘さが父らしくて、おかしくて。

笑いころげていたら、顔がぐちゃぐちゃに濡れていて、そしてなんだか元気になれた気がする。

やっぱ敵わないわ。


「ごめん、買い忘れてた」

弟を迎えに行った父が、バースデーケーキを片手に帰ってきた。


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