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「マノン・レスコー」 アベ・プレヴォー著  感想文

皆様、今年もよろしくお願い致します
更に長編も頑張って読破したいと思っております
作品に少しでもご興味を持っていただけたら幸いです

「マノン・レスコー」 感想文

生まれながらに物静かで、悪徳とは無縁の成績優秀である「デ・グリュー」が、マノンとの宿命的な出会いを果たす。
「たちまち、情火をあおられて、逆上してしまったのである」p.23
と、デ・グリュウにとって、またどの男性にもマノンの美しさは魔法のようであったのだ。

デ・グリュウは快楽と情愛に身を落としていく。
そこからダークサイドに引き込まれ行く彼の顛末は、それぞれの住む世界が違う者同士が恋をしてしまったその恐ろしさを物語っていた。デ・グリュウの人生にとってマノンの「美しさ」はどんな意味を持っていたのだろうか。
                
「美しさ」によってマノンは現実を生きていないと思った。彼女の性癖をすっかり飲み込んでデ・グリュウは襲ってくる貧しさや修羅場をマノンには包み隠してしまう。

父の愛や最後まで見捨てなかった親友のチベルジュをも幾度となく裏切り、それらをマノンの不貞の数々の犠牲にしていく姿に、読みながら「なぜ気づかない!」と思わず声を出してしまった。

苦しみの中で離れ離れ、困難を乗り越えまた再会、彼女の顔を見たい一心で、好意的な人々に多くの負担と迷惑をかけ続けても、マノンを守るという信念を曲げないデ・グリュウ。
マノンへの純粋な気持ちは汲み取れるのだが、あまりに罪深い過ちを繰り返すその醜態を暗澹たる思いで読まずにはいられなかった。度々溜め息をもらしながら。

その中でもデ・グリュウを信頼し助ける人間がよく登場するのは、彼の品格と容貌もまたすぐれているということであり、それらに想像をめぐらせた。
人の善意も安易に受け取って利用するデ・グリュウが、後の不幸を呼んでいるような気もした。

デ・グリュウの父、GMの父、甥のマノンへの恋の成就の為に奔走する司政官、父のような存在が息子、甥を守る為に常軌を逸した行動に出てしまう、そんな姿が痛々しく印象に残った。

「私は短い快楽を味わい、長い苦難をなめるように生まれついていた」p.104

生活が安定しても火事が襲い、また豊かになっても使用人に全てを盗まれ、そして度々のマノンの不貞が彼を苦しめた。

「憎悪と愛情、希望と絶望のたえまない交代に過ぎなく」p.50

マノンの慎み深い少女に恋し、不貞な情婦としか見えない彼女を受け入れる、その繰り返しの感情の中に生きているデ・グリュウ。
引き返す道はないのかと読んでいて何度も思いながら。

引用はじめ

「天はその最も苛酷な処罰で私を打つために、私の幸福が安定したと思われる時をいつも選んできたということは、全生涯を通じて私の経験したところだった」p.178

引用終わり

マノンを守る手段が賭博であったり、親の財産をも狙い、人の善意を平然と利用し、マノンの移送への襲撃を画策する過激さなど、それらで得た安寧に思いあがる二人を神は見ていたのだとつくづく思った。

デ・グリュウの核心ともいうべき一番大切なものを、マノンは「死」の少し前に確信し受け入れたと思われた。
一番大切なことが、「死」真際でしか理解できなかったマノンの不幸を思った。

マノンはデ・グリュウだけのものになった。

アメリカまで流されて行った罪深い二人、愛はずっと消えなかった。

一人残されたデ・グリュウを探しに来た親友チベルジュの真の優しさに胸を撫で下ろした。


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