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「モルグ街の殺人」ポー著 感想文

朝仕事に出かける5分前、玄関でバッグの中に鍵がない!
頭の回転が鈍くなっている私は、5分で考えなければならないことに焦る。
昨日の朝の事から思い出す。
確か寒かった、雨が降っていた、数少ない中から濡れても良いコートに決め、でもあまりにも降りが強い、あのどうでも良いコートにしたはずだ!
昨日の帰宅した時はどうだったか。たしかスーパーの買い物袋が重くて両手がふさがり、荷物を下に置いて鍵を開けたのだ。いつもならバックへ入れるのを、そのまま右ポケットへ、そうだ!全速力でコートへ、右ポケットから発見。5分以内でセーフだった。
探し物は体力を使う。見つかった時はとても気持ちがいい。そして経路が明確にわかると快感である。


デュパンの分析は人間技ではないにしても、その瞬間を楽しんでいる様子がかっこいい。この解き明かすことへの情熱が彼の生きる糧であると思う。

たとえそれが残虐な殺人事件でも、不謹慎だが楽しんでいる。

「限界を超えたところにある分析力」
「黙っていながら多くの観察や推理をする」
「推理の正しさよりも観察の質」
「相手の顔つきを念入りに見る」
「最後は相手に入り込み、相手自身になる」「計算することは分析することではない」「直覚のような彼の知覚能力はちゃんと事の真相を示している」(佐々木直次郎訳 参考)

序文辺りの言葉があまりに良かった。まだまだ沢山納得する良い文章があって読んでいて日常の判断の規範にもなりそうだ。

友人である語り手の心を読み取った部分が一番面白かった。

引用はじめ

「唐突に切り出したデュパンの話が自分自身の心の内とぴったり一致するなど、怪奇現象に等しいことを。すぐにわたしは気を取り直したが、この時の驚きは深かった」 p.19 新潮文庫(巽孝之訳)

引用おわり

「果物売り」から「背丈がたりないだの何だの」という結論までの「思考の道筋」が鮮やかで、「物事の連鎖」を明確にし追及し、行動を観察し、語り手が見つめて呟いたと思われるひとりごとを特定し、彼が思いを馳せる理論を当て、最近の二人の会話から、語り手が「オリオン座の大星雲を必ず見上げるだろう」と予測するところまで、なるほどと納得した。明確で後々探偵の作品に影響を及ぼすのがよくわかるほどにすごい。

毎日を生きて、自分がなぜその結論に至ったかを考え、さかのぼり過去を見つめるのも良い機会であり、これらを参考に考えてみようと思った。

この二人の隠遁生活がなかなか素敵だ。
本を読み文章を書き対話を続けて、気がつくと暗闇が来て、そこから二人、腕を組みパリの中に知的興奮を探し求める。
やりたいことを自由に楽しむこの姿が羨ましかった。


デュパンは自分自身のことはきっとわかっていない。あまりに他人を観察、分析し過ぎて、昨日何を食べたかなど、全く覚えていないのではないか。多分枕カバーもずっと変えていないと思う。

トランプの上手い昔の友人に、ジョーカーを持っているのを見透かされた夢を見た。ここ2、3日この小説にやられている。

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