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【短編小説】最後の一枚

私は倉庫の奥に眠っていた古びた木箱を開けた。縦10センチ、横20センチくらいの木箱だ。その中には、大量の切手が乱雑に保管されていた。懐かしさに浸りながら、一枚一枚を眺めていく。すると、一際目を引く切手があった。

その切手は、他とは違って少し大きめで、鮮やかな青色をしていた。よく見ると、中央に白い鳥が描かれている。

私は、その切手を手に取り、じっと見つめた。すると、不思議な感覚に襲われた。まるで、切手が私に語りかけているかのように。

私は目を閉じ、切手の言葉に耳を傾けた。すると、目の前に美しい光景が広がった。青い空、白い雲、そして大きな湖。湖のほとりには、小さな村があった。のどかで、平和な光景だ。

私は我に返り、再び切手を見つめた。しかし、先ほどまでの鮮やかな青色は消え、色あせた切手が残っているだけだった。私は、切手から目を離せずにいた。一体、何を見たというのだろう。

その時、私はふと祖父の言葉を思い出した。祖父は私が小さい頃に亡くなった。自殺だったと親には聞いた。

「切手を見ていると、不思議な感覚に陥ることがあるんじゃよ。ときに自分の全てが目の前に映し出されることがあるんじゃ」

祖父が言った自分の全てとは何だろう。

次に私は、小さな正方形の切手を手に取った。切手には何も描かれていなかった。全面が黒の切手。こんな切手があるのだろうか。私はその切手を凝視する。

すると、私の目の前に手が現れた。そして、その手が私を掴もうとしてきた。私はその手を振り払おうとした。そうすると、さらに手の数が増えた。増えた手も私に向かってやってくる。血のような赤い液体で濡れている手も現れた。そして手の一つがナイフを握っていた。私は悲鳴をあげた。

私は我に帰った。手に取っていた切手に何も変わりはなかった。あれは何だったのだろうか。血まみれのような手は何を意味するのか。

木箱は、大量の切手が入っていたが、その割には重い感じがした。切手のほかに何かが入っているのだろうか。私は、木箱を反対にして、中のものを倉庫の床にぶちまけた。

(ゴトッ)

ナイフが床に転がった。そのナイフは、私の目の前に現れた手の一つが握っていたものに似ていた。そのナイフの刃はサビがひどかった。しかし、その色はサビ色よりも赤黒いような気がした。

私は、ナイフに付着していた別の切手に手を延ばした。

また、目の前に映像が現れた。

祖父だ。私を見て微笑んでいる。しかし、目がうつろだ。また手が現れた。私の手のようだ。私の手にはナイフが握られていた。

私は祖父をナイフで刺しているようだ。

なぜか私は笑っていた。祖父は、腹を抑えフラフラと歩いて行った。そしていつのまにか、手に別のナイフを持っていた。祖父はそのナイフで自分の腹を刺した。

私は、自分が持っているナイフを木箱に入れ、蓋をしめた。

そこで私は、我に帰った。

真実がわかった。切手がそれを呼び起こしてくれた。祖父は自殺ではなかった。そういえば、切手は祖父が集めていたものだった。

木箱を見つけてよかった。色んなことを思い出せた。なんといっても最大の収穫は、私の最初の獲物が祖父だったことを思い出したことだ。

これで記録が完成した。

(終わり)

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