『イルカの背に乗る君』

イルカの背に乗る夢を見たことがない、と
君は悩ましげに話した。

そんなの僕も見たことがない、と言うと
それは、そうだろうね、と
口元だけに笑みを浮かべて。

納得がいかない。
けれどそれはおくびにも出さず
君の話を聞くよ、という顔をした。

君はいつも
僕の顔を見て僕以上に察するのに
剰えそれを馬鹿にして笑うのに
その先を話してはくれなかった。

だから
イルカの背に乗る夢、見れたらいいね、と
僕は努めて優しい声で言った。

見れたらいいってものでもないよ、
それすら君は飲み込んで
謎めいた悩みの中に沈んでいった。

明くればそれまで
昨夜のことは夢だったんじゃないの、と
僕が間違っていることになる。

水族館へ行こうかと言えば
仕方がないからついて行ってやろうなんて
やはり納得がいかない。

準備を終えて玄関に並び
ふと君のイタズラっぽい顔を見て
昨夜のことは夢じゃなかったと安堵する僕。

僕の夢ではもっぱら
イルカの背に乗る君。
僕は浜辺で手を振り返す。

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