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ねずみのひかり

テンダンに友はいない。五年も一緒に仕事をしていた友達はあっさりとテンダンを売った。文字通りテンダンの目と腎臓を片方ずつ。二つある臓器を両方取らなかったのは友情だったのだろうか。それはもうわからない。友達はテンダンを売って作った金を使う間もなく殺されてしまったからだ。
麻酔から目を覚ましたテンダンは友達の側に転がっていた幾ばくかの金を拾った。テンダンは薬物で眠らされていたおかけで殺されずに済んだ。いつも通り、二人で仕事の準備をしていればきっと殺されていただろう。二人の仕事は敵対組織の活動を暴力で邪魔をすることだった。恨みなど数えきれないほど買っていた。

テンダン。漢字では天壇と書く。天の頂きといった意味だが、そんな大層な意味があるなど本人は知らない。薄暗い空の下、地べたで暮らしている。不幸だとは思っていなかった。ほかの暮らし方を知らないからだ。川をはさんで向こう側かこちら側か、そんなつまらない理由で抗争を続けることだけがここでの生き方だ。薄汚い用水には黒い水が流れている。

片目と腎臓、テンダンはとりあえず目を何とかすることにした。かき集めた金で買った義眼を眼窩にねじ込む。この街には医者がいない。ジャンク屋の親父が細いコードをテンダンの脳につなぐと、ばち、ばちん、とテンダンの頭の中で火花が爆ぜた。

「ゆっくり目をあけてみな。うまく接続できてりゃ自分の意志で眼球を動かせるはずだ」

親父が笑うと、親父の鋼鉄の指がびくびくと痙攣したように動く。テンダンはゆっくりと新しい右目を開いた。何かが飛びついてきた。

ふかふかとした柔らかい生き物がテンダンの顔を覗き込んでいた。尻尾の長いねずみだ。濃い灰色の体と雪のように白い腹毛、黒いのに輝いて見える瞳がテンダンを興味深そうにのぞき込んでいる。テンダンが手を伸ばすと生き物はヒゲを震わせて飛びのいた。その姿は左目には映らない。右目だけに映っている。

つづく

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