スリーアイズ アンド フォーアームズ
偶数は美しさ。奇数は可愛らしさ。ここに悪いものなんてないわ。
青く輝くブラウン管の中で歌姫が歌っている。サキはタブレットから顔を上げて舌打ちした。テレビの電源を切ってやろうかとも思ったが、めんどくさかったのでやめた。
歌姫は火星で一番愛されている。彼女の唇は艶やかで、目は栗色で大きく、頬は柔らかそう。足はすらりと長く、柔らかなドレスの下の胸も豊かだ。でも誰もが魅了されるのはマイクを包む手のひらの6本目の指。小指より少し短い指。
偶数の美しい身体的特徴を強調するために、6本目の指にだけ、金色のマニキュアが塗られている。
サキの左の黒眉の上にある3つめの瞳がパチパチと瞬いた。二重の愛嬌ある瞳は誰からも可愛いと褒められる。奇数は可愛らしさ、だから。
「くそダサい歌詞」と悪態をつき、サキは項目の入力に戻った。サキが毛布に包まってる隣りでは親友のミケがふすーふすーと寝息を立てている。彼女が目覚める前に、これを送信してしまう必要がある。サキはタブレットの上で指を滑らせる。
地球への第一次移住者、一般労働枠にチェックを入れる。自分と親友の名前が並ぶ。サキはためらいなく送信ボタン押して、勝手に志願した。
「向こうでもよろしく」
サキは親友に笑いかけたつもりが、ひきつったおかしな表情になってしまった。邪魔だからと適当にくくっていた前髪を下ろして3つめの瞳を隠す。ミケは自分の運命がサキによって、たった今、ねじ曲げられたとも知らずによく眠っている。
ミケは筋肉質でたくましい下の2本の腕を腹の上で組み、柔らかそうな上の2本の腕で火星カビパラのぬいぐるみを抱いている。
ミケは女子レスラーだ。恵まれた体軀と鍛え上げた下の腕で相手を圧倒する。上の2本腕は試合では使わかなった。
彼女は上の2本腕でサキをよく抱きしめる。
『サキはいつも可愛いね。大好きよ』
【続く】
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