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スペースうそチンチラ アンデスへの旅

『輸送船荒野のチンチラ号。船長はすでに拘束した。逃亡を続ければ宇宙の藻屑となってもらう』
「チンチラは自由です!誰のいうこともきかないです!」

船内無線から蟹骨格警察官の深海よりも冷たい声が響く。負けじと航海補助AI搭載のチンチラロボットがきいきいと叫んでいる。俺は硬い操縦席にハーネスで固定され、なすすべなくコントロールパネルの上を跳ねまわるグレーの毛玉を見ている。

『おれをはめたなクソAIめ!離せ!おれのせいじゃない!』
『静かにしろ。カニばさまれたいか』
無線の向こうで船長と蟹骨格がもめている。何がおれのせいじゃない、だ。俺を騙して借金漬けにした上、違法な金塊輸送の片棒を担がせやがって!

しかし蟹骨格に捕まるぐらいなら、船長にどつかれながら怪しい荷物を運んでいる方がマシだ。やつらの凹凸だらけのハサミでおこなわれる執拗なカニばさみ尋問で廃人になった奴は数しれない。船長はおそらくもうダメだろう。船長の証言で俺も黒だ。

三畳たらずのせまいコックピット内はプワープワーとけたたましいサイレンで満ちている。俺はガタガタ震えた。船の免許なんか持ってない。頼れるのはチンチラを自称するおかしなAIだけだ。終わっている。

「チンチラは自由です!」
『藻屑となれ』
船が大きく揺れた。奴らの蟹々ミサイルが船のそばで炸裂したのだろう。

「お、おい……俺はどうすればいい?」

ふかふかのロボットは本物のチンチラのようにぷうと鳴いた。

「カイカイなさい!」
「かいかい……?」
「あなたはチンチラの世話をなさい!チンチラはよいニンゲンに世話をされるものです!ここがアンデスの高原でないなら、そういうものなのです!」

ふすふすとヒゲがゆれる。

「さあまずはカイカイなさい!はやく!」

チンチラは首を傾げ、やわらかい毛でおおわれた腹を俺に向けた。


【続く】

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