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月面コンビニ事故物件

月に人間が住みだした経緯についてはWikipediaでも見てほしい。そこには住みだしたものの月の不便さにあっという間に過疎った経緯も書かれているはずだ。
デイリーヤマギシ モスクワの海店は今日も客がこない。その上、事故物件なので出る。
今だってヘルメットの残骸を頭に引っかけた黒焦げの人影が店の中をうろうろしている。

ほんの数年前、ここモスクワの海にポリミテ星人の船が軌道計算の誤りで墜落した。もちろん全員死んだ。ここはそんな場所に建ったコンビニだ。

黒焦げの人影がゲル握り飯を廃棄しているキイチのことをじっと見ている。つい目をやってしまうと、キイチはゴールデンレトリバーのような人懐っこい顔でレジカウンターに寄ってきた。
「コウジさん!例の幽霊でました?」
「いやいない…」
俺は咄嗟に嘘をつき、キイチは露骨にがっかりした。
「クラブの先輩に幽霊の写真撮ってくるって言っちゃったんすよー」
キイチは軽薄なモテを擬人化したような顔と性格をしている。夜はクラブでDJをやっていて、そこで自慢するために幽霊の写真が欲しいなどと、へらりと話すようなやつだ。
「おいやめろ!!札を剥がすな!」
キイチはレジカウンター裏の目立たない場所に貼られた魔除けの札をカリカリと爪でこする。
「コウジさんは見たことあるんすか?」
「あるよ。お前には絶対に見えないと思う」
「あーおれ霊感ないんで。でもクラブでいいものもらったんすよ。これ、なんか感覚?とか霊感?が鋭くなるお香!」
「は?」
キイチはさっと謎の棒をポケットから出し、ライターで火をつけた。止める間も無い。

棒からもこもこと紫色のくさい煙が立つ。キイチの阿呆はゲラゲラと笑っている。
「うわー本当にいる!!こういうのエフエフとかに出てくるやつじゃん!」
キイチが指さす先にはバケツのようなヘルメットを被った西洋甲冑が立っていた。

つづく
 


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