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破壊のオー

俺の名前はオー。ゴムの匂いを愛するつまらない男だ。まあ俺の話を聞いてくれ。

俺が超能力に目覚めたのは4歳。母の手にひかれ、足を踏み入れた東京靴流通センターで初めて鼻孔いっぱいにかぐわしいゴム匂いを嗅いだ瞬間だ。俺はあの赤い看板を3km先までふっ飛ばしてしまった。

あの日から母親とは会っていない。

「呼び番号G65の品ダ」
「たった3つか」
「十分デショ。アンタ、沢山キメたら理性なくナル」

こいつはロロ。右半身にひどい傷がある男だ。地下でつまらない生活をすごす俺にたびたび仕事をよこす。
ロロが緊張した面持ちでスーツの懐から3つのビニールパッケージを取り出した。

Oリングを知っているか?断面がその名の通り、アルファベットのオーの形をしているパッキンだ。お前の周りにもあるだろう?

俺は特にニトリルゴム製を愛する!N. B. R. 艷やかな黒の円環!その匂いが俺を狂わす!!

夢中でビニール袋を引きちぎる!3つともだ!袋を裂いた瞬間にかぐわしいゴムの匂い!まだ微かな香りでさえ、常に半分眠っている俺の脳に光がさす!

(いやだ。こわい。こんなやつ早く処分して……)

仏頂面のロロの怖れが我がもののように脳に流れてくる。おもしろい。こいつは前に俺がうっかり半身を吹き飛ばしたことをまだ根に持っているのだ。

俺は歓喜に震える手で3本のOリングを利き手首にはめ、思わずそれにキスする。

「オー!命令に背けバ、アンタの鼻の中でカプサイシン爆弾を……」

深く深くOリングの匂いを吸う。ああ…奥歯が震えるような、少し甘いような……。白い光が目の奥で弾け、血液が熱く体をめぐる。俺が溶け出し、俺は全てとおなじになる。

見上げれば天井は白く透け、遠い夜空がみえる。まばたきひとつで俺は飛ぶ。

ガラスを砕いたような街の光が俺の足元だ。スカイツリーでも試しに折ってやろうか?

【続く】

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