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バランスの世界

彼はロックンロールの虜だった。外出時、片時もイヤホンを外さなかった。

彼は世界の音を聞くことを少し恐れていた。これは習慣によるものでもあった。何も恐れるものはないのに彼は音楽で武装していた。


彼の中で音楽は美しかった。彼にとって音楽は裏切りようがない存在だった。単にそれだけ?


いや、音楽はやはり理想郷だったってことだ。


音楽を聞いていれば、一歩踏み出す必要がない。ムーブメントを起こす必要がなく、自己の宇宙でそれは起こり完結していた。


そう、音楽は優しかった。そう、音楽は本当の意味で彼のためにならなかった。いつでも無性の愛で寄り添ってくれた。勿論、彼自身も音楽に愛を注いだのは間違いないだろう。


そう考えると、彼はもっと奏でればよかったのかと思う。聴くだけではなく聴かせることもすべきだったのだろう。


だってこの世はバランスの世界。無尽蔵に何かを取り込み続けたってそれは単なるアンテナだ。人間はアンテナじゃない。







プリーズ・リリース・ミー!