むかしむかし少年がいた。

むかしむかし少年がいた。
少年は友だちの彼女を好きになった。

友だちから彼女を奪おうと思ったわけではなかったが、
少年は彼女を映画に誘った。

それを知って友だちは不愉快そうだった。

やがてその友だちと彼女は別れた。

少年は仲間たちとねずみの国に行った。
彼女も一緒だった。

少年は彼女とふたりお化け屋敷の乗り物に乗った。
彼女の手が少年のももにおかれた。
奥手だった少年は何も反応できなかった。

少年はうちに帰ってから手紙を書いた。
そうして二人はつき合いはじめた。
少年にははじめてのことだった。

心が通うこと、体が触れ合うこと、
自分を受け入れてもらうこと。
少年は自分が生きている意味をはじめて知った。

残念ながら少年は、彼女にとって十分な存在ではなかった。
少年は女心など分からぬ、ただ自分勝手なだけの存在だった。
一年もたたずに彼女は少年から離れていった。

少年には絶望だけが残された。

少年の心は彷徨った。
少年は足掻いた。
少年は生きつづけた。

そして少年は成長した。

やがて少年は別の恋をして結婚した。
しばらくの平穏があったが、まだ何かが足りなかった。
少年はまだまだ自分勝手だった。
その結婚も四年足らずで終わった。

しばらく一人ですごし、新しい仲間と出会い、
そしてまた恋をした。
その恋もはかなく破れた。

友だちの彼女に横恋慕した。
どろどろの葛藤に落ち入った。

死にたいと思った。
死ぬこともできないと思った。

少年はふたたび結婚した。
今度の相手は不思議な強さを持つ女性だった。
この結婚も何度も破れかけた。
何度も何度も破れかけた。

けれど今度の相手は違った。
少年の身勝手さをなじりながらも、
許し、受け止めてくれた。

少年は今度こそ成長した。
そして少年は成長を続けている。

気がつくと少年はおじさんになっていた。
まわりからは若者たちの声が聞こえる。

どうにも重苦しいものを背負いながらも
若者たちは元気に遊び、笑い声を上げている。

世界に絶望しながらも、それでもけなげに生きつづけている。

あるものは恋に舞い上がり、あるものは恋に苦しんでいる。

まわりの若者たちの中に、おじさんとなった少年は、
かつての自分を見る。

さあ、みんな生きるんだ、
やがて死に至る、ちっぽけだけど大切な命を、
今をここぞと、せいいっぱい生きるがいい。

おじさんとなった少年は、そんなことを想いながら、
若者たちの放つ輝きに目をほそめる。

少年は今もおじさんの中で生きつづけている。

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#詩 #散文詩

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