Take the report with a grain of salt
日本財団という団体が18歳調査と称して日本の18歳に対してアンケート調査を行っており、その結果が財団のウェブサイトに公表されている。
もっとも直近に行われた第20回目のテーマが「国や社会に対する意識」と称し、全世界9か国の18歳、各国1,000名ずつに対して行われたものだ。
私が本稿で伝えたいことはこういうことである。
どのような調査結果であれ、結論に飛びつくのではなく、まずは疑ってかかることが大事である
調査というのは非常にパワフルで、重大な意思決定の根拠を提供する場合もあるし、会社や個人のものの見方を長期的に固定してしまうこともある。だからこそ、結果を鵜呑みにしてはいけないのであるが、私の周囲ではこの結果を見て大して深堀もせずに「今の若者は」という脊髄反射的なコメントを発信している者がたくさん見られ、少しがっかりしている。科学研究に携わったことのある人間、あるいは市場調査を実際に自分の手でしたことがある人間は、そんなことはしない。
私は良い経営者を目指すものは、少なくとも市場調査に一度は本格的にかかわるべきだと思っている。そうでないと、真実を見ようとするまなざしが磨かれない。この結果を見て自分の周辺で「今の若者」論にすぐ飛びつくのはいい経営者とは言えない。とはいえ、限られた時間の中で今から市場調査について一から勉強しなおすのも大変だろう。ここではこういう調査結果を見る際にはどのようなところに気を付けるべきなのか、ということを箇条書きにして説明してみようと思う。ぜひ参考にされてください。
1. 材料と方法とを確認する
英語論文ではMaterials and Methodsとなるが、どのような資源を用い、どのような方法を使って情報を収集したのか、ということについて調べるということは、調査の質を確認するためには必須である。
特に、こういう国際調査の場合は注意が必要である。質問票は翻訳されているはずだからだ。例えば最初の質問。
自分をおとなだと思う
これを英語に訳す方法はいくつかある。
A) I consider myself as an adult.
B) I think I am a grown up.
どちらでも同じ意味である。しかし、実はニュアンスが少し違う。このニュアンスの違いが結果に影響を与えたかどうかはわからない。なぜなら、外国語に翻訳された質問票は公表されていないからだ。
それ以外にも気を付ける必要があるのは、例えばインド。インドでは国民全員が英語を喋れるわけではない。したがって、英語の質問票をぶつけられるのはある程度高度な教育を受けているものに限られるだろう。それだけでも調査担当者の背景が異なる可能性がある。
調査対象者については、性年齢についての情報はあり、マスコミ関係者を除外したなどの記載はあるが、それ以外にバイアスに関する情報はない。報酬が提供されたのか、それが何だったのかというようなことも記載がない。つまり、こういう国際調査であるにもかかわらず与えられている情報が少なすぎるのである。
2. 調査の意図を読む
その上で、そもそも一体どういう目的でこの調査が実施されているのかということに関しても、背景を知る必要があるだろう。日本財団のウェブサイトには以下のような記載が示されている。
2015年の改正公職選挙法で選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられ、翌年の参院選から新たに「18~19歳」が投票に参加しました。民法の改正に伴い2022年4月には成人年齢も18歳に変わります。
そこで日本財団では、18歳の若者が何を考え、何を思っているのか、継続して調べる意識調査を行っています。次代を担う18歳が政治や社会、仕事、家族、友人、恋愛などをどのように考え、意識しているか、幅広く知ることで新しい社会づくりに役立てるのが狙いで、多くの社会課題に取り組む日本財団の事業にも調査結果を反映させたいと考えています。
文意から読み取れるのは、日本の18歳の若者はこれから大人になるわけだが、現状本当に大人になる準備はできてるのか?という懐疑的なまなざしである。実際、他の調査結果に用いられている表現もそういう視点からのものが多い。例えば、「障害」をテーマにした第5回の調査では、
実際に解除を経験したことのある人は45.8%にとどまる
との表現があり、明らかに「今の18歳人口は介助の経験が少ないのではないか」との立ち位置である。しかし、それを言うためには他の世代の介助経験の頻度と比較しなければならないはずである。
3. 確証バイアスに注意
このレポートは最終的にインプリケーションについてのコメントを語っていない。つまり、何が結論めいたことを直接は言っていないのである。したがって、「やっぱりオレの思った通り、今の若者は子供だよな」というのは、その人がもともと持っていた考え方(先入観といってもいい)をたまたまこのデータがサポートしていたので、自分の考えが強化されたということになる。この場合、こういう人が自分の考えをサポートするデータについては信じるが、自分の考えをサポートしないデータについては無視するということが起こりそうである。これを確証バイアスという。
このようなピットフォールにいつでも陥りうる、ということを認識しながらデータや調査結果を見る、というまなざしを鍛えることは極めて重要である。与えられたものに、健全な疑いをかけるということは、したがってとても大事なのである。
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