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【通信講座】 小説「天女伝説(仮) 」 講評

『【通信講座】 小説「生まれつき機嫌が悪い」 講評』で

日本近現代文学における、モデル作者、モデル読者が
どのように想定されているか、とてもよく分かる。
ブルジョワが書き、ブルジョワが読む(ブルジョワ=中産階級/俗物、いずれの意味でもかまわない)。
ある意味で興味深いが、あたらしいものは表現されていない。
「クラシック音楽バー」、「セックス」、安価な苦悩とメロドラマ、
村上春樹、山田詠美、金原ひとみ、その他の亜流作家が通過し、踏みにじってきたぬかるみを(足跡は残せまい)
あえてまた行こうというのは
作者の積極的な創造力の発露、必然的な選択の所産ではなく
日本語で小説を書くなら、このような素材を布置すればいい
という先入観があるとしか思えない。
見通しはいいので確実にゴールにはたどり着けるだろうが、本当にこの道を行くのか。
走りなさい。拍手でむかえられるにちがいない。
(マラソンで最下位の走者は、あたたかく祝福されながらテープを切る)

と書いた。


(おそらく)若い作者が
こんなに古いスタイルに固執して小説を書こうとしているのが
不思議でならない。
歴代芥川賞受賞作のもっとも低劣な模倣としか感じない。
このようなスタイルを追求すれば
「純文学がんばったで賞」である芥川賞をいずれ受賞するかもしれない。
なんの影響力もないが、大人の作家のひとりとして
若い作者に
こんなものが小説であると思いこませてしまった責任もあるのだろうか。

また、エーコを引用しなければならない。

(性行為の描写も含んだ)映画のなかで、登場人物が車やエレベーターに乗り込むとき、言説の時間が物語の時間と一致するかどうか確かめるのです。フローベールはフレデリックが長い旅行をしたと言うために一行を使いますが、普通の映画のなかでは、登場人物が飛行機に乗ったかと思うと次のカットですぐに到着しているのにお目にかかります。ところがポルノ映画では、だれかが一〇ブロック先まで車に乗っていくとなると、車は一〇ブロック—現実の時間で—移動します。だれかが冷蔵庫を開けてテレビをつけてソファで飲むためビールを注いだとすると、みなさんが家でそれをするのにかかるのと同じだけ時間がかかるのです。

ウンベルト・エーコ『小説の森散策』

つまらない、長い、古い、くだらない、退屈
というアカデミー流小説の条件をおさえているので
同じような小説観の人間は感心するだろう。
私はまったく感心しない。
才能ある作者が
つまらない、長い、古い、くだらない、退屈な小説を書きつづけるのが残念でならない。





(作者より)
・数字とか規模感の描写が多すぎるか。

正確、適切で、あなたの文体の個性としてのばせばいい点だと思う。


・忠実に時間軸を守ることしかできず、素人っぽさが増しているか。

読みすすめるのが苦痛だった。
7/73 までしか読めなかった。


・登場人物が多いか。

そうは思わない。
とにかくプロットが無造作すぎる。
序盤で主題を理解できない。


・容姿の描写や比喩が極端すぎて違和感がありはしないか、またはありきたりで新鮮さに欠けるか。
・語尾「言う」「笑う」などが反復しすぎか。俺は、このままでいいが。

文体に問題はない。
日本近代文学の擬古文めいていて
作者のことばで書いているとも思わないが。


・もっと日常的なシーンを積み重ねた方が良かったか。

まったく必要ない。


・蓮の成長過程的なのがとばされているのが不味いか。恋愛の克服?など

ビルドゥングスロマンとして書かれているとは感じなかった。
そのつもりなら、当然「不味い」。


・この文量で、オムニバス形式だと、薄っぺらいか(賞に出しても長く書く実力が無いと思われる?)

内容が空虚すぎるため
いかなる「文量」でも長すぎる。


・回想などにより時間軸が分かりづらいか。

申し訳ないが
そこまで到達できなかった。


・描写の過不足。特に、いらないシーン、もっと簡単にしていいシーン。

申し訳ないが
必要と感じるシーンまで到達できなかった。


・指示語の量。
・会話について。リアルさ? 意識で書いたのだが、くどくないか。というのも、会話の内容が核心を突きすぎたり、ストーリーの進行に都合がよすぎるようになると、何でこいつらはこんなディベートみたいな論理的な話し方をしているのだろうと思ってしまい、リアルさが損なわれると考える為に、リズムを意識して途中で地の文を入れて区切ったり、かなり遠回りして会話のゴールまで運んでいたり、会話の受け答えが論理的に成立していなかったりするため、回りくどくテンポが悪いかもしれない。

会話のリアリティーはこの作品の美点のひとつだと思う。
方言の誇張は実に芥川賞的だが。


・登場人物の真[心]理や内面の描写が粗雑であるか、または、ありきたりなものであるか。(苦手です)

描写の巧拙というより
書くべき「内面」を持っていない。


・アイスクリームやサイダーなどの小道具を手放すタイミングが分からない。というか、そんなこと気にしなくてもいいのかもしれないが、不整合が怖い。

その悩みは分かる気がする。
本質と関係ない「小道具」は出さないほうがいい。


・賞レースには、もっと現代的な特定の問題をこざっぱりとまとめたような作風が向くか。

賞をとりたいなら
まさに、このような作品を書いたほうがいい。

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