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【通信講座】 小説「バーマリモ」 講評

抑制のきいた、おだやかな文体は
おさない子供に語りかけるようで
そのゆったりとしたリズムが心地よくないこともない。

 

人物造形が表面的で
全員、常識的で良識円満ないい人たち
でしかない。
特に「マリモちゃん」は男である必然性もなく
必死に魅力を伝えようとしているが
まったく成功していない。
なぜ語り手と「晴彦」が好意を持つのか理解できない。
というより
その好意が、小説で表現する価値のある
特殊な好意だとは思えない。

 

人物の行動がまったくない。
場面もすべてバー内で
感情の変化、物語が動くきっかけを
すべて会話(長い独白)ですまそうとしているところに問題がある。


「……晴彦さんに、あなたは自然だねって言われた時に、初めて私が私であることを認められたような、私の傷をわかってくれたようなそんな気がして、胸があたたかさでいっぱいになった。」

「うん、あの時横にいて、そう感じたよ。マリモちゃんの胸がいっぱいになった後に、それを見たお父さんも、胸があたたかくなっているように見えたよ。」


このような空虚なことばだけで恋に落ちるだろうか。
「マリモちゃん」の39年の人生の経験が
ほとんど無である
という表現になってしまっている。

 

「母」の存在が完全に不要。

 

語り手の「絵」、語り手と「マリモちゃん」の関係性が主題だと
ふつうは予測して読みすすめるが
「絵」のモチーフが消滅し
「父」と「マリモちゃん」の関係性が中心になり
奇妙な構造の小説になったものだとおどろいた。


作者の見ている世界は
せまく、浅い。
さまざまな本を読み、経験をつみ
引き出しを充実させてほしい。

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