【通信講座】 小説「闘う中学生」 講評
平易で簡潔な文体に好感を持てないでもないが
ただ表現が稚拙なだけだった。
登場人物の行動理念が一貫せず、主題がなんなのかも読みとれない。
主人公「竜彦」に共感することなどできず、ヒロイン「姫香」にもまったく魅力を感じない。
『天気の子』の影響で「拳銃」を出したくなったのだろうが、引用元と同じようになんの必然性もない。
『オフィーリア』の描写にだけ、多少の個性を感じられそうだったが、なんの象徴なのか作者もよく分かっていなかったのだと思う。
影響を受けていても、パロディーでもオマージュでもかまわないが
部分をまとめあげる全体の構想が欠如しているため
よくあるシーンの断片的なコラージュにしか見えない。
「そんな簡単なことじゃないよ!」
竜彦は大きい声で言った。
「きゃっ」姫香は声に驚いて、階段を踏み外した。
「危ない」
竜彦は咄嗟に、彼女の身体を支えた。柔らかい感触とシャンプーの匂いがする。転落は防ぐことができたが、二人は意図せず抱き合う形になった。
「竜彦」(滝本竜彦?)と「姫香」の関係性が初登場時ですでに完成しているので
ストーリーを発展させることができない。
小説の要諦は「多かれ少なかれ特殊な変化を多かれ少なかれ特殊な文体で表現する」ということに尽きるが
単調ないじめが繰り返され、突然、破滅するだけであり
変化をみちびく構造、展開といったものが存在しない。
・展開が性急すぎないか
破滅型の悲劇を志向するのはかまわないが
準備が不十分で、とても納得できるものではない。
このようなラストにもっていきたいなら
一般的には、まるくおさまりそうな展開から突き落とすべきであり
「竜彦」の衝動的行動は、唐突であるという印象しかない。
・リアリティのある設定か
「拳銃」を持ち歩く理由がまったくない(『天気の子』と同じように)。
「昨日、隣町で拳銃が発見されるという事件が起きた」ことが
「拳銃」の二度目の発見につながるとは思えない。
最後まで犯人は描かれない。
言及された「チェーホフの銃」のように
ふつうは犯人が登場人物の誰かだろうと期待し、重要な伏線だと考える。
・タイトルに違和感はないか
「闘う」ことが主題とはとても思えなかった。
ラストは非合理的な破滅でしかなく、「逃げた」というほうが近い。
『オフィーリア』のイメージをふくらませたほうが
借りものの「拳銃」などよりよほどおもしろかったと思う。
穂高がそう言うと、蝉川と高木が近づいてきた。二人は竜彦を無理矢理起こし、羽交締めにした。
「よっしゃ、二発目いくぞ!」
穂高は、がら空きになったみぞおちを思いきり殴った。
「ううっ」
拳が深く入る。あまりの衝撃に竜彦は悶絶した。胃液が逆流し、口から涎が垂れる。肺が潰れて、世界が一瞬だけ真空になったのかと錯覚した。
竜彦は堪えきれず、背中から倒れて仰向けになった。
「羽交締め」から「仰向け」になれるだろうか。
望月はクラスの担任教師だった。担当科目は英語。発音が少しネガティブである以外は、これといって特徴のない教師だったが、一点、彼は事なかれ主義だった。
発音を「ネガティブ」「ポジティブ」とは言わない。
「ネイティブ」と混同しているのだろうか。
竜彦は大きい声で言った。
稚拙。
とても一人で掃除できる量ではなかった。
竜彦は箒と塵取りで床のゴミを掃き取り、机の上を雑巾で拭く。しばらくすると、粗方綺麗になったので、良しとすることにした。押し付けられた掃除当番で、頑張るのは馬鹿らしかった。
「一人で掃除できる量ではなかった」のに「しばらくすると、粗方綺麗になった」のはなぜか。
白昼の昼休みのことだった。
トートロジー。
竜彦は目を覚ますと、自分の身体がベットの上で寝ていることに気づいた。現実に戻っていた。
「ベット」→「ベッド」
銃弾がちゃんと入っているか、指でなぞって確かめる。銃弾は装填されたものが六発、ポケットにしまった予備が六発、計十二発あった。
前の章に「数発」とあるのを忘れたのだろうか。
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