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2019年7月の記事一覧

詩 306

詩 306

  風葬花

うすく つもった 雪の上
ゆっくり はばたく 遠ざかる
あなたの秘密 赤い点
未完に終わった 風葬花

深い眠りの底 しずむ
空のかなたで ごうごう と
うねる こだまも 退屈で
真実 どこにも 見あたらず

二階でさみしく 耳が燃え
ゆだねた心も返されず
花びら 一枚 つめたい牛乳

細く しなやか また 高く
柱の影たち 交錯し
迷子の風が うわばき 忘れた

詩 305

詩 305

  帰り道は三日月

波はアルビノ 泡 クラゲ
ポケット コオロギ かくれても
あの常夜灯 照らされて
分かってしまう 声 まばら

土星の子の歌 うつくしく
こわがらないで 歩きだす
ここにいて まだ ここにいる
遠い場面の やせた影

カラスが落とした おくりもの
花をちりばめ 力なく
飛行機 ほしがる かわいそうな子

からから 鳴ります かすかな火
小部屋 あかるい 古時計
あおむけ わた

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詩 304

詩 304

  手

夜のりんごの傷口に
かなしい かなしい 大きな目
しなやか なぞる 水面に
何度 あなたは 顔 うつし

分解された あいまいな
番号 いくつ プラタナス
結晶 くもらせ 分からない
まるで 人間 なつかしい

あかり ともして ルーレット
やさしく浮かぶ物語
むこうは赤い あなた つめたい

きれいな服を うばわれて
階段 のぼる 蜂の羽
見わたすかぎり 森 光の渦

詩 303

詩 303

  夢の島プラットホーム

キンポウゲ 嘘 フリージア
ゆるせなかった 下水道
振り返るたび くしゃみして
最後の犠牲者 見つからず

しずかな呼吸も しかられて
きれいな空気は ここじゃない
退屈すぎて りんご飴
らせん えがいた こがね色

雨のしずくが熟したら
ひとつ ひとつが 信号機
咲いたり 散ったり 楽園 コラージュ

かけら きらめく うろこ雲
あなたをとらえた情景は
いつまでたって

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詩 302

詩 302

  大聖堂

息を吹きかけ 染める 青
石の柱にはさまれて
からみあう 枝 砂時計
なんて はかない 同じ花

あなたとわたしは水彩で
変わりゆく 顔 ちがう 夜
迷ってばかりの細い線
しあわせな日々 暗い部屋

さめたスープで食事して
決まった時間にあくびして
手をさしのべる やっと かたまる

そこでは たぶん 夢心地
誰もあなたを傷つけず
もしも 泣いたら 首輪をあげる