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2019年5月の記事一覧

詩 294

詩 294

 生存当番

ただしいことを知っていて
寒い廊下で靴をぬぐ
汚染の徴候 首のあざ
火災報知器 塗り変えて

毎朝 忘れず 水をやり
ひたいに落ちた 露 ひとつ
複眼世界 姿勢 よく
あなたはあなたの夢に住む

ランプの火の色 おそろしく
すぐに笑える 雨あがり
架空の星座 あくびするたび

生まれたばかりの子供なら
大きな声で泣けるから
音楽室で ひとり 宿題

詩 293

詩 293

  果実不在

母胎のなかから嫉妬して
おやすみ の 声 たえまなく
焼却しても また ひとつ
邪悪な存在 思い知る

重い足どり つきささり
つぶれた あなたに分かるよう
遠い足音 からみあい
たしかに感じた 退屈に

不安はないから 浮かぶから
はずかしくても 大丈夫
あなたのまちがい 繰り返さない

いますぐ 消えてしまいたい
息をとめれば削除され
どこにもいない 愛すべき人

詩 292

詩 292

  月光点滴

誰にとっても同じ夜
虫歯 親指 標本に
閉じこめられて 三千個
ぶらさげられて 街灯は

月のかたちの窓 照らす
行きどまりには 避雷針
共存できない この 証拠
タツノオトシゴ 空 ループ

家路 たどって 青い傘
ショーウインドウ 光 だけ
あなたが立てば 眉は 鳥 雲

片目 つむって 水の上
花 散り つもる 時間 なく
メリーゴーランド お元気ですか

詩 291

詩 291

  鳥との蜜月

あなたも少しは目がさめる
ポケットの手を そのままに
ミント かがせて 顔 しかめ
かくしていたこと 話すなら

わたしは木の下 銀の枝
真珠の葉っぱを 編んだ 影
あなたは海岸 船を待つ
電柱 置いて 雲に いす

網をはっても 目に見えず
そんな虫などいないから
たなびくシーツは つめたく 白い

痛くもないのに つかまって
青の絵の具のチューブから
逃げた魚は また 眠いふ

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詩 290

詩 290

  外来種

チョークの輪のなか 生息し
日ざかり ワイン ふりかかり
悪いことだと知りながら
ガラスのかげりに ひざまずく

種は はじけて あふれそう
理想のこたえ 飲みほして
指紋は 清潔 正反対
おしえることなどできません

音符 たたえた 真空に
こごえる わたし 忘れたい
嫌悪のかたまり 存在 そのもの

うなずいたから 排除され
怒られないかと ふるえる 日
しずかに 消える 簡単だ

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詩 289

詩 289

  プリンセスハイドランジア

だまったままの森のなか
さみしい 光 こぼれ落ち
座標はいくつもあたえられ
わたしは ふたつも選べない

花咲くヒースの野を歩き
色彩そのもの 青りんご
生まれ変わった その 心
旅人 あざむく みおつくし

ただしい原理に身をゆだね
自転車 こげば 月を食べ
心臓 かがやく 記憶喪失

みのりゆたかな 秋の日の
かわいた舌に 黒の星
誰が見つける あなたが 切りと

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詩 288

詩 288

  憂鬱飛行

耳をすまして 雪よりも
しずかに つもる 灰 正午
さみしい横顔 口ずさむ
ふたりのための子守唄

影もかたちも失って
わたしはちがう つまずいて
自分のことも分からずに
見つめているだけ うっとりと

コスモスだけが知っている
廊下を わたる 風の色
待っているから 明日も どうせ

すてきな花壇で くるくる と
おどっていれば 千羽鶴
遠くなるたび ひびわれる 頬

詩 287

詩 287

  熟睡厳禁

ひとつしかない窓のほう
ゆらゆら 泳いで たどり着く
みにくい 黒い目の少女
髪はみだれて 背のびして

ワルツ マーチにない価値を
えがきはじめた その瞬間
夜の使者から排除され
それでも気高く泣いていた

炭酸 ぶちまけ ひとにぎり
のぞみ 息づく 物語
着がえてくれば不安もなくて

軽蔑されても 大丈夫
あなたはきっと アゲハチョウ
孤独に酔いしれ 約束 忘れて

詩 286

詩 286

  人造感覚

夜景は いつでも有害で
象牙の船で ただよえば
楽器のように 無知 無意味
心 すみわたる ほこらしげ

空は あなたが大嫌い
春 うららかに シャンデリア
雨を あなたにたたきつけ
臆病者と否定した

鍵をあずけて やすらかに
やっと これから 休める と
おわかれの前 ため息 ついた

蛍の点滅 交差点
夕暮れ わたしは 意志 弱く
銀 ステンレス 目 耳 口 かざる