人と組織を伸ばせないリーダーのたった一つの共通点
今回は人材育成と組織開発のお話です。私が経営者や組織リーダーの方々と接して感じるのは、チームメンバーの意欲を高め、育て、組織も大きくするリーダーは共通して「言葉の力」を大切にされているということです。
リーダーには、グイグイ引っ張るタイプの方もあれば、チームメンバーを後ろから押し上げるタイプの方々(最近ではservant leader、直訳すれば「召使型リーダー」と呼ばれる方々)もあります。あるいは、現状打破をタスクとして強く意識される変革志向の方(transformational leader)もあれば、人間関係を尊重する調整志向の方(transactional leader)もあります。
「言い方力」とリーダーシップ
人間は言葉によって思考し、情動をもち、行動し、関わる生き物です。リーダーは、チームを動かし、大きくしていく中で、メンバーのベクトルを揃え、ベクトルを引き延ばし、個の力を強くしながら全体の力を強くすることが求められます。
その際、「褒める」ことは意欲を引き出し、ベクトルを引き延ばすには良いことです。褒めることとおだてることは違います。おだてるのは、必ずしもメンバーを正当に評価していることにはなりません。メンバーが「おだてられている」と思えば、リーダーの下心を見透かされます。「褒めるなら 事実を以て 心から」が原則です。
同時に、リーダーとしては、ベクトルを揃えるために、指示を出し、時にはメンバーの行動を制限することも必要でしょう。その制限のために行われるのが「叱る」というタスクです。叱ることは、叱る方も精神的エネルギーのいることなので、できればやらない方がお互いのために良いタスクです。とはいえ、法令違反や公序良俗、信義則に反する行為には、明示的に警告し、禁止することは不可欠です。
しかしながら、禁止する必要はなく、気軽な指示で問題ない局面でも、禁止するような物の言い方を好むリーダーがいます。人を育て、組織を育てることが得意なリーダーと下手なリーダーの間で差が出るのがこの「物の言い方」です。ここでは、その能力を「言い方力」と呼ぶことにします。
怒鳴る、不機嫌になるといった感情任せの未成熟なリーダーは「言い方力」は当然に低いと言えるでしょう。未成熟なリーダーの下にいるメンバーは、外見上は従っていても、心中でリーダーをバカにしています。面従腹背です。このような状況では、リーダーが真に叱る必要がある事案が発生しても、メンバーがスルーするか、時にリーダーを刺しに来ることとなります。
そのような未成熟なリーダーは、企業で得てして不正が起こるパターン、不正発覚が遅くなって組織が崩壊するパターンによく見られます。そもそもリーダーとして不適切な資質の持ち主なので、組織のリーダー選定・就任プロセスに構造的問題があるとも言えます。
「言い方力」が低いリーダーの悪いクセ
一方、リーダー選定・就任プロセスに問題がない組織でも、「言い方力」が弱いリーダーはいます。それが「禁止する局面ではないのに、禁止型の言い方をするリーダー」です。例えば、リーダーがメンバーに、自分のイメージに合わせた資料修正を指示する際、次の表現からどのような印象を受けるでしょうか。ご自身がメンバーである時、上司にどのように指示されるとやる気が出そうでしょうか。
1.AをBに修正して欲しい
2.AをBに修正してもらえないか
3.AをBに修正してみるのはどうか
4.Bに修正し、Aはしないでください
5.Aはしないでください
私の個人的経験では、学習意欲と貢献意欲の高いメンバーほど、「3.」のような提案型の指示を好みます。この言い方にはメンバーに対する「あなたを信用していますよ」というメッセージが込められています。同時に、「最終的には、私が責任を取ります」というリーダーの覚悟も含意されます。人間は誰しも、信用されている、期待されていると思えば、より頑張ろうとするものです。その成功体験はやがてメンバーがリーダーになった時に、他のメンバーに波及(spill over)していきます。
「1.」と「2.」は、ともに指示的です。「1.」は完全なトップダウンです。「2.」は、目線をメンバーに合わせようとする、相手を尊重する意思はあるように伺えます。多様性のある組織を潤滑に回す上では、「2.」の言い方は適切かも知れません。いずれもリーダー目線では一番気楽な指示の出し方で、トップダウンで物事をクイックに動かすにはこれらの指示方法が妥当なこともあります。ただ、「3.」のような人材育成の観点はあまりありません。
メンバーのやる気を削ぐのが「4.」と「5.」の「禁止型」の言い方です。特に、「5.」は、禁止されたが、代案がないため、メンバーを混乱に陥れる最悪の言い方です。「言い方力」はゼロです。これら「禁止型」の物の言い方は言葉による体罰のようなものです。ペットに「ダメ」と躾けるのと同じで、人材育成はもとより、組織を潤滑に運営する配慮はありません。
メンバーは委縮し、リーダーの顔色を窺うようになります。メンバーは自らを「ただの歯車」「指示をこなすだけのマシーン」と捉え、自分でモノを考える意欲を奪われていきます。最も恐れるべきは、メンバーが自信を喪失して「当たり前にできたことができなくなってしまう」パニック状況に陥り、場合によりうつ病を発症してしまうことです。
「言い方力」の低いリーダーとならないために
不正を犯して崩壊していく組織のリーダーの口癖は、私の知る限りの事例ではありますが、「4.」「5.」が多かった印象です。統計的分析を行っていないので常に当てはまるかどうかは分かりませんが、事例から帰納した「人と組織を伸ばせないリーダーのたった一つの共通点」は「禁止型の言い方を好むこと」です。
リーダーが禁止型の言い方になる理由は大きく二つあります。第一に、メンバーを信用していないかツールとしか思っていないことです。第二に、クリエイティブにリスクを取って物事を考えるよりも責任回避の保身の気持ちが先行していることです。いずれもその根底には、自分自身の非力を潜在的に認めている(が対外的には認めたくないと思っている)ことがあります。
裏を返せば、禁止型の言い方から脱したいと思うリーダーは、次の二つのことをすれば良いだけです。第一に、メンバーを信用し、その人の将来キャリアも考えながら仕事を依頼してみることです。第二に、実態を直視し、実態に見合わないプライドを捨て、自分を許すことです。
かくいう私も、自らを振り返りながら、「言い方力」を意識しないとと考えながら日々仕事をしています。言うは易くですが…。
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