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コンサル利用のトリセツ

今回はコンサルタント、アドバイザーについてのお話です。私は通算20年ほどその業界に在籍していました。他業界に身を置いたことも4度あったのですが、その時に企業の方々から耳にしたのが「コンサルは嫌い」という言葉でした。異口同音に「高額な報酬の割には成果へのコミットがなく、無駄だった」と仰います。契約額は高いもので半年で数億円、中には(ソフト・ハード等の物件費を含まず)数十億円というものもありました。コンサル利用の理由を伺うと多くは「コンサルの営業に押し込まれた」か「社内事情により致し方なく」のどちらかでした。

「コンサル嫌い」となった深い理由や背景は割愛しますが、期待値と成果がズレているから不満が生じる点では同一です。コンサルティングファームの種類は様々で、個人レベルでは、スキルも人柄も含めて優れ、誠心誠意取り組む方々も多数います。「コンサル嫌い」は企業にとっても、コンサルファームにとっても勿体ないことです。私は常々、「企業がコンサルを上手く使う方法」について考えてきました。

結論としてはシンプルです。コンサルを利用する企業は:

  1. 自社が常に主導権を握り、コンサルの強みに応じたサービスのみを求め、丸投げにせずに使い倒す

  2. コンサルに具体的な成果を(法的義務が発生しない程度に)保証させる

  3. 依頼内容を細かに文書化し、企業側もコンサル側も「なし崩しの業務範囲拡大」を防ぐ

その上で、コンサル利用の価値が大きくなる局面は二つだけです。

  1. 粒の揃った、まとまった数の人材を急いで揃える必要があるとき

  2. 特殊技能で自社のリスクを抑えたいとき

その理由をご理解頂くには、日本のコンサル業界の系譜を知ることが有用と考えています。長くなりますので、ご興味がありましたらお読み下さい。

コンサル業界の変容

日本のコンサル業界の黎明期は1980年代ですが、認知度が高まったのは1990年代です。業界を牽引していたのは、マッキンゼーやボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に代表される「戦略系」でした。大前研一さんや堀紘一さんなどの有名人が率いるチームが、米国から輸入したノウハウも使いながらサービスを展開していました。

同時期に、アクセンチュア(当時、アンダーセンコンサルティング)も、ITコンサルの一社として急成長を遂げていました。同業界では、IBMやNEC、富士通、日立のような製品を担ぐIT専業も多数ある中、野村総研や大和総研、日本総研など金融系シンクタンクも勢力を伸ばしていました。会計・税務の視点からシステムコンサルを始めた会計事務所は、M&Aを重ねてBig4(デロイト、PwC、EY、KPMG)に集約し、そのコンサル部門は離合集散を繰り返し、戦コンとITコンサルの間を行き来していました。誤解を恐れずに言えば、当時は、業界の序列が「戦略が上、実行が下」というような「イメージ」で成り立っていました

それが現在では、業界の序列が「規模」に依るようになりました。アクセンチュアを筆頭に、IT領域のプレイヤーが戦略領域からアウトソーシング領域までを吸収し、巨大化しました。Big4は、「士業」のテクニカルスキルを武器に会計・税務領域やIT領域だけではなく、戦略領域から、法務領域、投資銀行領域まで水平・垂直でカバーする流れとなっています。戦略コンサルファームも、サービス拡張の範囲は限られますが、ITやM&A領域の立案・デューデリジェンスから投資事業、データ販売などへと事業を広げています。

共通しているのは「実行支援」にフォーカスしていることです。実行支援に力を入れるほど、人員数とそれを支える経営資源が必要となります。「規模が第一」になのは自然なことです。少数精鋭を謳っていた戦略コンサルファームの中には、従業員数を数百名程度へと増やした企業もあります。

なぜ「規模」が大切になったのか

「規模が第一」となった理由は二つあります。
第一に、お客さんである日本企業の事情です。海外進出が進み、デジタル化、ESG対応や働き方改革、株主価値向上のような社会的要請に対応する必要が生じています。高度成長期・バブル期の記憶を抜け出せない経営スタイルの変革を迫られている企業もあるでしょう。総じて、「急いで経営の形を変える/新しい形を作る」ことが経営者に求められています。

スピード感のある変革活動は、粒の揃った人材の物量と、リスクを極小化しながら効率的に進めるノウハウを必要とします。理論的には、ノンコアのタスクを除けば、活動を内製化し、組織内の蓄積を高めた方が中長期的には良いのですが、外部環境がその時間を許さないこともあります。その場合、スキルの高い人材の物量で勝負できるコンサルファームの雇用は有効です。

第二に、「具体的成果の保証がない戦略立案にお金をかけるのは無駄」という考え方が一般化したことです。「プライドが高く、上から目線でモノを言いたがる戦略コンサル」が「綺麗なお絵かきだけして高額報酬を請求してきた」という根強い?過去のイメージを感じなくもないですが、投資対効果(ROI)で考えれば、無駄というのは仰る通りです。

具体的成果を保証できるサービスと言えば士業です。企業が守るべき法規制や会計基準を「知らなかった」では、後でペナルティを背負うこととなります。税法や優遇措置の知見は、目に見えるコスト削減とインセンティブ獲得を可能にします。例えば、グループ再編では、戦略立案に加え、会社法や雇用法の知見が必要ですし、株式価値算定や税法の知見も必要です。行政のインセンティブの情報も有用です。広汎な士業の支援が必要になります。

この時、企業としてはお付き合いのある専門家にお願いするのが効率的(経済学的に言うと、取引費用が低い)ですが、お付き合いが限られる企業は適切な専門家を探す手間がかかります(取引費用が高い)。そのため、様々な「士」が集まり、ワンストップで済ませられると楽です(取引費用が下がる)。従って、コンサルファーム側の事情としては、戦略系、IT系、会計系等のサブカテゴリーに関わらず、可能な限り多様な専門家を集めてサービスラインを広げ、人材の層を厚くし、「プラットフォーム化」することが妥当な経営となります。

余談ですが、そのような組織では「タレントマネジメント」が最上位の経営課題となります。現在のコンサルファームのビジネスモデルはいわば「芸能事務所型」です。仕事の依頼を受ける芸能人は自分の芸を磨く。マネジャーはタレントを売り込み、仕事を獲得する。その成果で評価が決まります。コンサルファームも同様に、現場に近いコンサルタントの評価軸はタスクをこなして「課金」を増やすことです。職位が上になるほど、評価軸はタレントの獲得・維持、所属タレントチームの売り込みにシフトします。

所属タレントが多ければ仕事の依頼は増え、タレントを育成し、囲い込む機会も増え、事務所は益々大きくなります。反面、所属タレントは少ないながらも有力タレントを擁する事務所もあります。この点はコンサルファームも同様です。ファーム間の規模格差が大きくなっているとも言えます。ちなみに、かつての戦略コンサルファームでは、大前さんや堀さんのような有名な方が自分の名前で大型案件をとり、メンバーにタスクと報酬を配分する「タレント兼事務所長」モデルでした。規模を恃みにしたコンサル業界の中で、このモデルはニッチ分野のコンサルでみられます。

補足:コンサル選びのおまけの視点

最後に、コンサル選びに当たり三点ほど補足です。

①具体的な成果を期待しやすいコンサルのチーム構成

士業のほか、次のようなメンバーが参加するプロジェクトでは、分かり易い成果が出る確率が高いです。提案書設計の際に考慮されると良いでしょう。

  1. IT・業務改善など実務に近い領域での成功&失敗体験をもつスタッフ。失敗体験の方が役に立ちます。コンサルは失敗を語りたくない性向があるので、失敗を語れるコンサルは信頼できます

  2. 「データで見える化し、語る」ノウハウをもっているスタッフ。定量データ(ない場合は、なるべく客観性を担保した定性データで代用)で説明・整理できるコンサルは、モヤッとした議論や、とっ散らかった議論をより効率的にまとめてくれます

②業務範囲・期待成果の文書化

コンサルは提案時のプレゼンでは「何でもやります」というスタンスを取りがちです。他方、委託側も、なし崩し的に依頼内容を広げることがあります。このようなケースでは、プロジェクト開始後の比較的早い段階でお互いが気まずくなりがちです。企業側も(コンサル側も)、双方に既に十分な議論がなされ、信頼関係がある場合を除き、業務範囲と期待成果の細かい設定を面倒くさがらない方が良いでしょう。入札形式をとる際には、仕様書を可能な限り細かくしておくことです。

コンサルに依頼する時は忙しい時であるため、「まるっと」投げたくなります。しかしながら、面倒くさがった分、プロジェクト費用に跳ね返ります。「報酬が想定以上に高額になった」ケースのほとんどは業務範囲・期待成果に十分な合意がなかった(文書化されていても雑で、関係者の目線が合っていなかった)ケースです。傍目からも、お客さんの要望に対してオーバースペックで高額な提案があるのも事実です。ただ、コンサル側は、スタッフを守るためにも、曖昧な業務指示書に対してはスペックと費用を膨らませて保険をかけざるを得ない事情もあります。

③綺麗なパワポを作らせ過ぎない

企業がコンサルに委託しがちで、コンサルも率先してやりがちなのが、綺麗なパワポを大量に作ることです。コンサル慣れしていない企業は、綺麗なパワポに魅せられやすく、また「分厚いパワポ」は仕事をやった気にさせてくれます。パワポを作るには時間がかかるので、契約が従量制(かかった時間分だけ請求する契約。タイムチャージ、タイムマテリアルと呼ばれます)の場合、コンサル側も課金がしやすいのです。

しかしながら、大切なのは実行であり、企業もコンサルもそこに手間暇をかけるべきです。ディスカッション用の資料はワード1枚、パワポ数枚で良いのです。スキルの高いコンサルならそれだけで、物事をうまく運ぶサポートをしてくれます。

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