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サンジョルディでオースティンの傍系を頂いたことに今ごろ気が付いた

振り返ってはじめて、自分が何を頂いたのか気付くこともある。

遡ること2023年4月23日。この日は「サンジョルディの日」と呼ばれ、「本を贈る日」とされている。そしてこの日に本を贈るイベントが開催された。

註:サン・ジョルディはスペイン・カタルーニャ州の聖人で、竜にさらわれた王女を救い出すため勇敢に闘った伝説が残っている。サン・ジョルディが殉教した4月23日を“愛する人へ想いを伝える日”とし、女性から男性へ本を、男性から女性へバラを贈る日とされた。

ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%81%AE%E6%97%A5

このイベントで、私は『十二国記 月の影 影の海』という本を頂いた。まず自分で買わない本だった。

読むとなかなか面白い。読みやすさもあってすぐに続刊を読む進めることができた。『十二国記 月の影 影の海』のほか、『十二国記 風の万里 黎明の空』も面白い。登場人部の心理状況の変化や、マインドセットの変貌が、読む者の心に響く。

登場人物が、物語の中で自分の勘違いや至らなさに気付く。このメタ認知から自己修正を図っていく成長物語の面白さ。この爽快さは、以前にも味わったことがあった。「なんだっけ?」と思い巡らす。そうそう、ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』のすっきり感がまさにこれだ。

ジェイン・オースティンと言えば、彼女の作品を紹介しつつ、それぞの作品のプロットを模した『ジェイン・オースティンの読書会』という作品がある。映画化もされた。

『ジェイン・オースティンの読書会』にも、オースティン風なプロットが用意されている。作品の後半で、SF作品が紹介される。SFを小馬鹿にしていた登場人物が試しに読んでみて感銘を受け、自分の食わず嫌いを恥じる。『高慢と偏見』で、エリザベスが例の手紙を読んで自分の偏見に気付いたように。

『十二国記』から『傲慢と偏見』を思い出し、『ジェイン・オースティンの読書会』にまで思いを巡らせた時、読み忘れに気が付いた。『ジェイン・オースティンの読書会』で紹介されたSF小説だ。なんだっけ?

調べてみて、ル・グウィンの『闇の左手』であることを知る。さっそく読む。SFらしい、異星人の訪問にまつわる文化や価値観の衝突。知らない相手を知ろうとして、でもそのやり方が相手に誤解を与える。作品の後半で、相互理解が進み、各々の誤解が解ける。ああ、やはりここにも、メタ認知による自己修正がもたらす 清々すがすがしさがあった。

上記が扱うテーマは、ビジネス書風に言えば、上記は「マインドセット」ということなのだろう。そのようなビジネス本を私もよく読む。しかし、分かったような口ぶりで、実のところ人の心と記号接地できていない感受性の低いビジネスパーソンは多い。

人間心理というものは、理論よりも物語を読む方が文字(記号)と実態の接地が進む。「自らのメタ認知によって自己の偏見に気づいて修正を図る」ということはどういうことか、人は 物語ナラティブ から学ぶのではないだろうか。ビジネス書よりも物語を読んで想いを馳せた方が良いかもしれない。

メタ認知による自己修正が、『十二国記』では成長物語として、『傲慢と偏見』では恋愛物語として描かれていた。『闇の左手』では友愛と平和がもたらす希望(「光の右手」を浮かび上がらせるもの)として謳われている。

そしてもう一冊。別の系統で見つけたのだが、同じようにメタ認知による自己修正が描かれている、抜群に面白い小説があった。台湾の楊双子による『台湾漫遊鉄道のふたり』という作品。私にとって、2023年に読んだ小説のNo.1がこれ。


4月のサンジョルディで私が頂いたのは、ファンタジー小説ではなく、オースティンへの理解だった。メタ認知によるマインドセットの自己修正がどのように働き、それが人生をどのように切り拓くのか。そのことに、私はどこまで記号接地できていたのだろう?他人の思考や価値観に働きかける前に、自分へのメタ認知を深めるべきではないか。年の瀬にそんなことを思ったりしている。

そして振り返って、これらの作品が全て女性の手で書かれたものであることに気づく。これは偶然だろうか?

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読書や文章作成に関する本の感想や、自分なりの読書に対する考えのようなものをまとめていきます。人生とアートを本で語れるようになりたくて。 …

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