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西園寺命記~青龍ノ巻2~その18

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「メイちゃん、祭のことを心配してくれてありがとう。でも、若青龍さまが祭を花嫁にしようとしているというのは嘘なの。そういうふうに振舞っていただけ」紗由が言う。

「どういうことですか?」戸惑うメイ。

「翔ちゃんと私が目指したのは、西園寺の“命”の独立。口うるさい家の“命”たちや、四神たちの目を欺くために、力を持つ者を封じたり、遠くへやったりして、彼らの目をそらしてきました」

「西園寺の能力者たちと縁組しようとする者も増えて来てね。祭も、花巻のところの神楽ちゃんも狙われていた」翔太が言う。

「つまり、狙われないように、ミコトさんをわざと外に出したんですね」

「ええ。しかも、ご乱心の若青龍さまの元、事件が起きかけたと聞けば、西園寺の力自体も疑うようになって、少し安全だったの」くすりと笑う紗由。

「彼らというのは、伊勢の関係者も含めてだがね」翔太が補足する。

「でも、そのためにミコトさんは今まで辛い思いをしながら清流を離れていたんですよね? 関係者の皆さん、みんなでミコトさんをだましてたんですか?」こぶしを握るメイ。

「知っていたのは、私たちと祭と龍だけだ」翔太が言う。「本当にすまなかった、ミコト」

「ごめんね…ミコト」紗由の声が震える。

「そっかあ、よかったあ」ホッとしたように笑うミコト。「祭が傷ついてなくてよかった」

「ミコトさん…!」メイがミコトを見つめる。

「確かに、意識がない時間があるっていうのは不安だったけど、寝てるときと大差ないし、翼おじさんが面倒見てくれてたし、東京の暮らしは、けっこう面白かったし」

「ありがとう…ミコト」涙ぐむ紗由。

「でも、父さんと母さんは、すごく心配だったろうな…」

「駆と深潮ちゃんにも申し訳ないことをした。ジェット機に乗る前に龍から話を聞いているはずだ」ぼそりと言う翔太。

「あの…もしかして、彼らはミコトさんを探しに伊勢に行ったわけじゃなくて、独立の手続きのために行ったんですか?」

「そうなの。メイちゃんがジェット機を呼ばなくても、もう、こちらへ向かってたのよ」

「はあ…」気が抜けたように返事をするメイ。

「それはともかく、今までずっと若青龍さまに濡れ衣着せてたんですよね。すみませんでした」頭を下げるミコト。

「かまわぬ。我が仕事は清流旅館を守ること」若青龍が応える。

「あの…でしたら、真大祭が終わった後も、古の青龍さまと一緒に、ここを守っていただけませんか」

「それは今後の再編成次第だ。西園寺に近い者たちの独立がどこまで認められるかによって、我の行き先も変わってくる」

「あの、基本的なことを聞いてもよろしいですか」メイが言う。「独立なさるのは、龍おじさま、聖人おじさまと…昇生おじさまもですか? ジェットに乗ってる大地おじさま、翼おじさま、充おじさまは…?」

「昇生はメンバーには入らぬ。有川の宮が入る」

「昇生おじさまは、どうなるんですか」

「“命”を降り、本人の希望通り、芸道の道にまい進すればよい」

「本家の“命”は華音おばあちゃま…!?」思わず叫ぶメイ。

「そうだ」

「それと、四辻の宮、久我の宮、有川の宮の“集”は、現在、青龍が抜けておる。我はそちらに行き、新たな“命”を迎えることとなろう」

「誰がなるんですか」

「黄龍の若宮を迎えたい」

「鈴露を? でも彼は一条の“命”…」目をぱちくりさせるミコト。

「本当の両親の元に籍を戻せば西園寺の者となる」

「でも、育ててくださった一条のご両親のお気持ちは…」眉間にしわを寄せるメイ。

「彼らの実の息子、鈴露の弟に黄龍の宮を継がせる」

「そんなに都合よくいくものでしょうか…」眉間のしわがさらに寄るメイ。

「交渉はミコトがするがよい」

「え?」驚くミコト。

「成立のあかつきには、祭を九代目から解き、嫁に出すがよい」

「ちょ、ちょっと待ってください。今、変なこと言いませんでした? 祭ちゃんが九代目の予定だったんですか?」手をあわあわと降るメイ。

「ミコトが留守をしていたゆえ、伊勢にはそのように届けてある」

「もしかして…」ミコトが口をはさむ。「跡継ぎが死ねばすべて解決、的な伝言の意味は、祭が九代目を止められるようになれば、すべて解決という意味だったんですか」

「いかにも」

「あの、私も質問です。西園寺華織のご宣託、“赤の子は龍の子を開き、龍の子は赤の子を閉じる。これぞ二つの命の理。悪しきもの清らに流れ、真の祭は己が役目を終える”。この意味を教えてください」

「朱雀には、すべてわかったと申していたようだが」

「はったりです。それに、皆さんがミコトさんの中に入れば開いちゃうのでしたら、私はなぜ呼ばれたんですか?」

 メイは静かにその答えを待った。

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