西園寺命記~青龍ノ巻2~その19
* * *
メイの問いに答える若青龍。
「ミコトの力を封じたのは龍の宮。彼がミコトを開こうと思えばいつでもできた」
「それこそ、私の仕事ないじゃないですか」
「いや、あるのだ。それはおまえが自分で考えろ」
「そんな…」
「“悪しきもの清らに流れ、真の祭は己が役目を終える”。悪しきものとは、西園寺を巡る人間同士の争いのこと。独立によって、因縁を流す。今のシステムの中で行う、最後の大祭が今回の真大祭だ」
「あの、前半部分のヒントだけでも…」
「ならぬ。ミコトと二人で考えろ」
渋々引き下がるメイ。
「ねえ。じいちゃんは“命魂”で何をお願いしたの?」
「我が高橋家の幸せだろ。独立する“命”たちの幸せ。残った“命”たちの幸せ。それと若青龍さまの幸せだ」
「…ミコトさんて、翔太さんに似たんですね」
「私の方が二枚目だがね」笑う翔太。
「私だったら、敵に塩を送るようなことしません。清流旅館も西園寺も被害者なわけですし…」
「でもね、メイちゃん。こちらが被害者意識を持ち続ける限り、争いはずっと続くんだよ」
「だから、被害者をやめるというのが、私たちの出した答え、彼らの元を離れることなの。悪く言われようが、それはそれ。これからも、どんどん能力者を輩出して、鍛錬を重ねて、神との交流を続けて、世の中につくす。それだけ」
「人間の欲は、獣神さまたちの在り方にも影響する。このままでは、天との交流どころではなくなる」
「最初はね、ずいぶん迷ったの。おばあさま…西園寺華織は、あくまで“命”システムの中で自分の役割をまっとうしようと研鑽を重ねていた人だったから。その遺志に背くというのは、皆の中にためらいがあったの」
「だが、鈴露くんが生まれた時のいざこざで、皆、自分の中の疑問が大きく膨らんでしまった。力のあることの何が悪いのか。勤めを果たしているだけなのになぜ虐げられるのか」
「鈴露くん自身も辛かったと思うの。ご両親と引き離され、心ない人たちからの思いを全部受けて」
「そんな中で、鈴露くんと祭は会ったんだよ」
「鈴露くんが8歳で、祭が6歳だったわ。祭はすぐに鈴露くんのお嫁さんになるって決めたようなの」
「そんなに前からだったんですね…」
「あら。華音ちゃんは1歳半で悠斗くんに狙いを定めてたわ。翔ちゃんが私にプロポーズしたのも、私が3歳の時だし」
「はあ…」
「みんな、ませすぎだよ」笑うミコト。
「でも、問題はこれからね。龍にいさまたちの申し出が聞き届けられなかった場合、実力行使することになるわ」
「戦うんですか?」
「こちらの望みばかりが通るわけはあるまい」若青龍が言う。
“いかにも”
「鈴露!?」メイが叫ぶ。
“私もこれから伊勢にはせ参じます”
「何をするつもりだ」
“私が“命”を退けば、一定の理解を得られるかと”
「なるほど」
「ちょっと! 何で鈴露がそんな貧乏くじを引き続けるわけ?」
“メイ。交渉事とは、そういうものだ”
「違うわ! “命”は人々の幸せのためにいるんでしょ? あなたも人々の中の一人じゃない!“命”軍団を信じて任せなさいよ!」
“メイ…”
「そうだわ。鈴露と祭ちゃんで伊勢に行って、神前結婚式挙げて来なさいよ。話はそれから」
「我も同意だ」若青龍が笑う。「若宮の決意を見せれば、朱雀の姫の力も倍増ぞ」
“…承知いたしました”
「あ…なんか聞こえる」ミコトが上を向く。
「どうしたの?」
「ジェット機がもう一基来る」
「みんなで来いってことね。じゃあ、行きましょう。若青龍さまも」
「我ら四神は残る」
「何でですか?」
「それぞれの居るべき場所へ戻る」
「えっと…縞猫荘と黒亀亭と雀のお宿に皆さんを運ばないといけないんですか?」
「案ずるな。勝手に戻る」
「え。戻れるんですか?」
「移動に際し、制約があるのは羽童のみ。積もり積もった勘違いだ」
「それぞれにご自分の宿に戻ってどうなさるんですか?」
「守るべき場所を守る。よけいなものは排除する」
「…わかりました」ぎゅっとこぶしを握るメイ。
「それでは若青龍さま、翔太さん、紗由さん、行ってきます」
「行ってきます」
「二人ともありがとう。行ってらっしゃい」紗由が答える。
「気を付けて」
翔太が言うと、部屋の中は再び光の渦に包まれた。
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