![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37433014/rectangle_large_type_2_e87a2bdc0d910440cff0632965c2ce78.jpg?width=1200)
西園寺命記~青龍ノ巻5~その24
* * *
駆とミコトの舞も終わり、真大祭は終幕となった。
本来ならば、赤ん坊たちを怒らせて怒りを流すはずだったのだが、卵からかえった赤ん坊たちは自由に動き回り、祭祀に加わってもらえない。
祭主の駆がそこで判断を下した。
「赤子さまたちにも、自由に祭を楽しんでいただきとうございます」
そして、ミコトの件で、改めて“気の寄付”をしていただいた獣神に、追加の土産が振舞われた。
ミコトが助けた青龍の親神が問う。
「これは、いかに使うものぞ?」
「次回の祭では、皆さまにもブースをご用意し、お好きなことをしていただきたく存じます」ミコトが親神を見つめる。「それに必要なものを、久我コンツェルンが承るためのチケットでございます」
「“クガコンツェルン、イイモノ!”」ドラゴちゃんが叫ぶ。
「いい子ね、ドラゴちゃん」淡々と言う真里菜。
「そのような土産とは…」龍神の笑い声が響く。「清流旅館が、我ら獣神の楽しみを考えている。その思い、承った」
龍神は空へと消えて行った。
* * *
祭が終わった後、翔太と紗由の祭壇がある大広間にミコトたちはいた。
「本当にどうもありがとうございました」
畳に頭を擦りつけるようにして、龍に礼を言うミコト。
「ありがとうございます」同様に深く頭を下げる駆。
その傍らで深潮と、メイも頭を下げている。
「いや、私が礼を言われるようなことではないよ。響さんを呼んだのは…」龍が微笑む。「いや、それより、そろそろ宴会の準備だな」
「そういえば…奏子おばさんも、真里菜おばさんも、史緒おばあさまもいないんだけど…?」
ミコトが龍に尋ねると、真里菜が台車に乗った沢山のぬいぐるみを広間に連れて来た。
「はーい、皆さまおいでですよー!」
その先頭のぬいぐるみは、ゴージャスないでたちの赤い鳥だった。
「おばあさま!」思わず叫ぶ龍。
「騒がしくてよ、龍」
「もしかして、西園寺華織さん?」ミコトが赤い鳥をじっと見つめる。
「“命”さまだ…」
充がぬいぐるみに近づくと、ぬいぐるみが声を掛けて来た。
「充くん。今日は響さんのご案内ありがとう」
「い、いえ。とんでもありません」
「どうかしら、この依り代。まりりんがステキなお帽子とドレスを作ってくれたの。奏子ちゃんが綺麗な石を選んで、その石で華音がネックレスを作ったのよ。お名前は史緒ちゃんが書いてくれて、その横に、咲耶ちゃんの印も押してあるの。鳥のお顔は、まこちゃんのデザインだし」
「よ、よくお似合いです」
「おばあさま、充くん、困ってる」
台から降りて腕組みするのは、髪をアップにして着物を着た青い龍のぬいぐるみだった。
そういうそばから、袂からお菓子を出してもぐもぐと食べるのを見て、龍が言う。
「紗由か…」
「この着物ね、大島紬なの。まりりんが奮発してくれて。うふふ」
「でも顔が龍だしなあ…」
「顔が龍だろうが紗由ちゃんは、ごっつうかわええで」
そう言って現れたのは、燕尾服に蝶ネクタイ、シルクハットで口にバラを加えた龍のぬいぐるみだ。
「このバラ、本物の“プリンセス紗由”なんやで!」
「ふうん…」
「師匠、ごっつう似合ってはりますわ」舞が飛んでくる。「紗由姫も品のええお着物で…あ、これどうぞ」
なぜ持っているのかわからないが、舞が懐紙をポケットから出して、紗由のお菓子に添える。
「ありがとう」
「何や、お声がお若いですな。姫も師匠も」
「設定が9歳ぐらいになっとんねん」
ぬいぐるみたちは、自分で台車を降り、その横にある台車に積まれた補助いすを運び出した。どうやら自分が食事をするテーブルに持って行くようだ。
「あの、私たちがやりますので…」
メイが駆け寄ると、マッチョなネコのぬいぐるみが声を掛けて来た。
「いいんですよ。皆、久しぶりの体なので動きたくて仕方がないんです」
「あなたは、もしかして…高橋進さん…?」
「はい」
「うわあ! 私、ファンなんです」
ネコの前足を持って一瞬握手すると、足をそーっと置き、後ずさるメイ。
「ありがとうございます……あ、悠斗。これ、手伝ってくれるか」
呼ばれた悠斗が駆け寄る。
「白虎の姿を借りている方のテーブルに置いてくれ」
「…何、これ」
「見ての通り、またたびよ」
白い長毛の猫のぬいぐるみが傍に来て言う。
「ママ…白虎さまにしたんだ」
悠斗が言うと、未那は両手を腰にやり、悠斗を見る。
「進ちゃんとおそろいに決まってるじゃないの」
「そうだよね」悠斗が笑うと、未那も進も笑う。
「なんか、いいわね。こういうの」
微笑むメイを見ながら、ミコトも微笑む。
「うん。皆、楽しそうだ」
「楽しい事の次に来るのは…」神楽が現れ、二人に言う。「支度が済んだら、龍おじさまから大切な話があるそうよ」
「お祭り終わっておめでとう、とかかな」
「故人まで呼び集めてする話なのよね…」
難しい顔で龍の後姿を見つめる神楽に、ミコトとメイの心はざわつき始めた。
* * *
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?