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西園寺命記 青龍ノ巻5~その25(終)←本当に終わり(笑)

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  *  *  *

 華織、翔太、紗由をはじめとする故人も大勢、依り代によって呼び寄せられ、関係者は翔太たちの祭壇がある大広間に集められていた。

 中央には龍が座し、その横には駆がいる。

「神楽ちゃんは、何かある的なこと言ってたけど、普通…だよね」ミコトが隣に座るメイに囁いた。「宿の亭主と、ここを主宿にしていた元“命”さま。祭が終わって挨拶するのはこの二人だし」

「ミコトさん、よく見て」

「ん?」

「龍おじさまが袴姿なのはわかるけど、何で駆おじさまも袴姿なの? 舞装束から着替えて、何であの格好なのかしら?」

 言われてみれば確かにそうだとミコトは思った。

 通常、父が着ているのは、いかにも旅館の次期亭主といった趣の着物だった。龍と同じ格好をするというのは、何か違和感がある。

 龍が一同を見回す。

「本日は赤子流怒真大祭へのご協力ありがとうございました。無事、60年に一度の節目を納めることができ、ありがたいことでございます。まずは、今回の成功を祝して乾杯の音頭を取らせていただきます」

「でも、挨拶、普通…だね」

「うーん」

 ミコトとメイは違和感を募らせつつも、乾杯をし、目の前の膳に手を付け始めた。

 その時、部屋に入って来たのは神楽だった。

 舞と一緒にホワイトボードを部屋に運び入れている。

「ん?」増々怪訝な顔をするミコトとメイ。

「…見えたわ!」

 囁き声で叫ぶメイを見つめるミコト。

「よくわからないけど…今、あのボードに書かれる文字が見えたわ…」

 メイがボードを見つめていると、龍が言う。

「そして、それとも関わる大切なお知らせをさせていただきます」

「龍にいさま、話が長くなるから…」

 紗由の依り代の青龍のぬいぐるみばボソッと呟いた。

「…じゃあ、紗由が言えば」不満げな龍。

「そうしまーす!」ぬいぐるみが壇上に上がる。「うちの駆は、龍にいさまの養子になります!」

「はあ!?」

 思わず立ち上がるミコトのシャツを引っ張り、座らせるメイ。

「にいさまたちは、伊勢の“命”一派を抜けたわけですが…新たに“命”一派として活動することになりました」

「いいの!? それ!」

 再び立ち上がるミコトを叩くメイ。

「大丈夫。以前のように、伊勢の神様方との交渉はしません」

「じゃあ、何するの?」眉間にしわを寄せるミコト。

「獣神さまたちとでーす」手を振る紗由。

「八百万の神々の眷属たる獣神さまたちと交流をはかり、伝えていただくんだよ」微笑む龍。

「直接、八百万の神々との交渉はしないってことですか?」

「今までのやり方というのは、毎回、平社員が直接社長に交渉するようなものだからね。効率がいいようで良くないんだよ。だから、それぞれの交渉事に合った相手に交渉するシステムを作ることにした」

「えーと…それは…何となくわかりましたが…」ミコトは再度立ち上がった。「何で、うちの父さんが、龍おじさんの養子になるんですか?」

「駆には、旅館業務を離れて“命”になってもらう」

「はいいぃ!?」

「だって、駆の仕事なくなるのよ」紗由が言う。「考えてもみて。祭が半年間くらいではあるけれど八代目になって、ミコトが九代目になるわけだし」

「いやでも、うちにはドラゴンブルとか、関連企業もいくつかあるわけで…」

「そんなのミコトがやって」

 そう言いながら、着物の袂からお菓子を出してぼりぼり食べる紗由。

「うわあ…待って、ちょっと待って」頭を抱えるミコト。「父さんは西園寺駆になるわけ? 母さんも西園寺深潮になるわけ?? 俺は?」

「高橋でいいです」お菓子をごくりと飲み込む紗由。

「あ…そうなんだ…」

 ペタンと座るミコトの肩を撫でるメイは、紗由に向かって手を挙げた。

「はい。メイちゃん、どうぞ!」

「駆おじさまだけですか?“命”になるのは」

「いい質問です」お菓子のかすを拭う紗由。「今まで、目を付けられないように力を封じていた人たち…簡単に言うと、メイちゃんの親の世代の人たちの力も解きます」

「ただ、すぐに皆を“命”にするわけではないよ」龍が言う。「まずは、私の世代の女性陣に仕事をしてもらう」

「そして、お孫の世代は力が強いから、すぐにお仕事してもらいますけど」

 ミコトは、じゃあ、“命”の仕事をしない人って、この中でいったい誰がいるんだよと思いつつ、一同を見回した。

  *  *  *

 一年後――。

 清流旅館では祭の準備に追われていた。

「深潮おばさまー! 奏子おばさまと鈴露から“石”預かってきましたー!」

「メイちゃん! どうもありがとう。あちこちお使いさせちゃって悪いわねえ」

「いえいえ。こちらこそ、小コンサートの場所を提供していただいて、ありがとうございます」

「んもう。ありがとうもなにも、メイちゃんのピアノで、うち催し物は成り立ってるようなものだし」

「でも…今日は…極上の催し物を計画しているんですが」うふふと笑うメイ。

「…正直、お祭よりも気になる、例の一件ね?」深潮がメイの手をぎゅっと握った。

「はい。どう転んでも、よろしくお願いいたします」メイは深潮の手を握り返した。

  *  *  *

 ミコトの部屋に、スーツケース2つを運び入れるメイ。

「その荷物…?」ミコトが驚いて見つめる。

「うちのおばあちゃまからよ。神箒の飾りにするオーナメント類とか、お土産の品とか」

「ああ、ありがとう」

「そうそう、この荷物ね、おまけつきなの。受け取りにサインお願いします」

 メイはニッコリ笑って、一枚の紙を差し出した。

 メイの住所氏名が記された、茶色い縁取りの用紙だ。

「おまけって…」

 メイは自分を指さし、極上の笑顔で微笑んだ。

「サインしてもらえる?」

「も、もちろん…」

 上ずる声で答えるミコト。

 そして部屋の外からは、一斉に拍手が鳴り渡った。

(終)

  *  *  *

(*^^*)とりあえず、いったんシリーズは終了です。

今までありがとうございました。

西園寺響が主人公の番外編『ヴォイス・ハンター ~西園寺命記外伝~』を構想中ですので、その節はまた、よろしくお願いいたします。

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