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西園寺命記~青龍ノ巻5~その20
* * *
龍たちが見上げていた何かは、ドラゴちゃんたちだった。
「気のご寄付をお願いします」と書かれた横断幕を持って、獣神たちの間を走っているのだ。
「“オネガイ! オネガイ!”」
「ああん、可愛い…私も寄付したいわ」真琴が言うと、女性陣が皆大きく頷く。
獣神たちの視線もドラゴちゃんたちに集まっている。
そして、彼らが飛んで行った先には、特設ステージの上にとぐろを巻いている若青龍の姿があった。
「じゃま!!」思わず叫ぶ真琴に、やはり大きく頷く女性陣。
「うちの舞踊の晴れの舞台だというのに…!」奏子は悔しそうに呟いた。
* * *
祖母世代のざわつきをよそに、ミコトたちは冷静にその先を検討していた。
「僕はステージの上でなくても出来るから問題ない」舞踊が言う。「その間に、次の準備をするといいよ」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」ミコトが言う。「…メイさん。走馬おじさんと、連弾してくれないかな」
「え? でも、一度も合わせたことないけど…」メイが自信なさげに言う。
「大丈夫だよ、メイちゃん」
「走馬おじさま!」
「西園寺ってピンチに強いからね」
笑う走馬に、メイは意を決したように頷く。
「よろしくお願いします」
「ああ、それから…ピアノをステージ下に下ろしてくれないかな」
ステージを眺めながら、スーツ姿の昇生が言った。
「昇生おじさま!」
「二台のピアノの周りをフラワーアレンジメントしよう。まりりんが花を山ほど用意してくれたおかげで、まだ出来るからね。他の準備のための時間稼ぎをしておくよ」
「よろしくお願いします!」頭を下げるミコト。
「能も地面の上で構わない」鈴露が言う。
「ていうか、昇生さんのショーが終わったら、そこに続きで舞うよ。メイは連続で申し訳ないけどピアノを続けてくれないか」
「わかったわ」
「ピアノでお能か…斬新でいいね」頷くミコト。
「じゃあ、私がフルート吹こうかしら。お笛の代わりに」
そう言って現れたのは、舞踊の妹、詩音だった。
「詩音!」
「京都の方々も到着されたわよ」微笑む詩音。
「彼氏さんと一緒か。よかったなあ」舞が肩をポンポンと叩く。
「このリア充め……でも、よかったな」
舞踊が小さく呟いてその場を去ると、詩音が驚いたように舞踊を見つめる。
「おにいちゃん…何か、変わった…」
「せやろ? それが清流旅館マジックや」舞が言う。「我が師匠が大切に育て上げたものが、この場で続々実を結ぶんや」
「楽しみだわ」詩音は優し気に笑った。
「ねえ、舞ちゃん…」神楽が心細げに言う。「私、何したらいいと思う?」
「わかってるやろ、そんなの」舞が微笑む。「兄弟子と一緒に、特別ゲストのお世話をしてや。あのお方は、あんたが一番のお気に入りや」
「うーん。みーくんに気に入ってもらう方がいいのになあ」
「あんたのやり方、ちょっと直球過ぎるわ」笑う舞。「メイちゃんにミコトくんを渡さへんと思わせる。そんなこと、せえへんでも、あの二人は大丈夫や」
「でもほら」あごをくいっと上げ、舞踊の後姿を見つめる神楽。「くっつきそうで、くっつかない。そういう例を見てるものだから」
「ほっときや…」
「舞ちゃん、お能には参加しないの? いろんな楽器できるのに」
「正直、一条の舞は苦手なんや」
「…九条の血がそう言わせるのかしらね」笑う神楽。
「修行不足やなあ。師匠なら、いろんな事情もまるっと飲み込んで、うまくやらはる」
「そういうエピソード、事欠かなかったわよね、翔太おじさんと紗由姫」
「ああ。ちゃんと伝えて行きたいわ」
「みーくんは家を離れてて知らなかった部分もあるものね、伝えてあげて」
「祭ちゃんのアルバムコーナーも楽しみなんや。わての知らんことも、ぎょうさん知れるやろし」
「あの方にこそ、見ていただきたいわ…じゃあ、私は私の仕事を」
「お互い気張っていこな!」
舞と神楽は笑顔で別れた。
* * *
若者たちのステージは大盛況だった。
その間、獣神たちの間を必死に挨拶に回っていたミコトも、翔太と紗由の孫ということで、他地方の獣神たちからも大人気、予想しなかった事態となっていた。
そして、ドラゴちゃんたちもぬかりなく、気のご寄付をお願いする横断幕と共に、獣神たちの間を飛び回っていた。
そのおかげもあってか、ステージ上の若青龍にどんどんと“気”が注がれていく。
ステージ横には、ドラゴちゃん2号が、お土産の依り代ぬいぐるみ渡し係として座しており、ぬいぐるみがぬいぐるみを渡すという、シュールな光景が展開されていた。
メイたち、演者がステージ裏でぐったりしていた頃、ステージ前には車いすにのった老人がやって来ていた。
車いすを押しているのは花巻充、そしてその横には充の孫、神楽がいる。
「お館さま…神楽のお願い聞いて下さいませね!」
車いすの前に跪き、老人の手を握る神楽。
老人は、目は笑っていたが、その口元まではうかがえない。
鼻から下、首まで、包帯が巻かれていたからだ。
「包帯、お解きいたしましょうか?」
神楽が微笑むと、老人は自分でその包帯を解き始めた。
* * *
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