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西園寺命記~青龍ノ巻5~その19
* * *
メイに見つめられた舞は、強い声で言い返す。
「名前を教えられていたからいうて、何も変わらへん。龍おじさまレベルなら別やけどな」
「でも、知らないよりは…」
メイを遮るようにミコトが尋ねる。
「その方にお会いすることは、俺への試験なの?」
「試練を迎えし剣士~なんちゃって~!」
「…マインちゃん、そのギャグわかりづらいよ」冷たく告げる神楽。
「あかん。すべってもうたわ」頭を抱える舞。
「じいちゃん、そっくりだ…」
「メイちゃんに、そないな顔で睨まれるの辛いよってに、ちいとばかり、種明かししとくわ」
「マインちゃん、美人に甘いから…」ため息の神楽。
「ミコトくんとメイちゃんには、ほぼ共通の情報が与えられていると思うねんな」頷く舞。「でもって、他の人間にはそれぞれな情報が来とる」
「それをうまく引き出せていければ、このお祭りは成功…ということかしら?」たどたどしく尋ねるメイ。
だが、メイの質問には答えない舞。
「わが兄弟子は、まりりんの姉御には昔から逆らえへん。彼女に言われたら、うっかりさんになるやろなあ」
「まりりんおばさまは、ご主人様、四辻の“命”さま…あ、元、ですけど、彼には従順」神楽が微笑む。「で、その彼は妹大好き」
「四辻の石の姫、奏子さまや」
「奏子さま!」
「奏子おばさまは言うまでもなく、この宮さまの考えに従う…」
舞が微笑むと、一同は一斉に叫んだ。
「龍の宮さま!」
「せや。そして最終質問。龍の宮さまが逆らえない人はだあれ?」
「西園寺華織!」
「華織さんに聞けば、華織さんに命じてもらえば、すべてうまく行くってことなの?」
少し安心したように言うメイにミコトが言う。
「だめだよ、そんなの。攻略本を片手にゲームを始める、自称名うてのゲーマーみたいで格好悪いよ」
「そうだけど…」口をとがらせるメイ。「じゃあ、そういうヒントが出て来たことの意味は何なの?」
「いざという時に使えばいいんじゃないのかな」
「いざって…私が日本に戻ってから、いつだって、いざだわ」
「じゃあ、とりあえず、いざ、を忘れて今に集中しよう」珍しくきつい口調のミコト。「自分に出来ること、自分ならではのことで、ステージを立て直そう」
「そうね…」
頭を切り替えようとしているのか、首を左右に大きく振るメイを見て、皆、安心したように微笑む。
「わて、師匠の物まねさせてもろうてもええか。師匠から教えていただいた話もしたいし」
「ありがとう」嬉しそうなミコト。
「私はさっきとかぶるけど、ピアノ弾くわ」メイが言う。
「うん」
「僕はジャグリングなど大道芸を」
「うんうん」
「俺はどうしようなか…」考え込む鈴露。
「鈴露さまはお能でいかがでしょう?」
「祭…」
「幼い頃から黄龍さまに献じていたではありませんか」
「そうだな。そうさせてもらう。おまえは?」
「私は…」祭が微笑む。「紗由ばあちゃん譲りのアルバム編集の結果を上映します。生解説付きで」
どんどん皆のやることが決まっていき、焦るミコト。
「俺…どうしよう。別にバック転ずっとやってるわけじゃないし…」
メイがミコトの肩を掴む。
「ミコトさんは、次期亭主として、丁寧にご挨拶を重ねたらいいと思うわ」
「そうね。それがいいわ、おにいちゃん」祭がバッグからファイルを出す。「これ、獣神さまのリスト」
「そういえば、祭。故人たちも依り代でお招きするのは、父さんたちも賛成してくれたんだよね」
「ええ。だから…」
「専用依り代を用意したわ」真里菜の声に振り返るミコト。
「真里菜おばさん…本当に久我コンツェルン、さまさまです」
手を合わせるミコトに、真里菜は静かに言う。
「みんなが頑張っているのよ。あの史緒ちゃんまで、方々に頭を下げて、今回の諸々が成立しているのよ」
「おばあさまが…」
「京都のグループもこの後、来るって連絡があったわ」祭が言う。
「…まさか京都も、“命”を脱退しちゃったの?」ミコトが恐る恐る尋ねた。
「京都グループで別派を立ち上げるみたい。だから伊勢に遠慮しつつ西園寺関係者と交流を図ることはしなくて済むようになりました」高らかに笑う真里菜。「だから、ミコトたちも頑張りなさい」
「うん…」
ミコトはしっかりと頷き、微笑んだ。
* * *
ミコトたちが自分たちのステージの準備にやっきになっていた時、ステージ前では、客たる獣神たちの目の高さを何かが横切り、ぐるぐると飛び回っていた。
「あれは…」
龍たちは慌てて集まり、空を見上げた。
* * *
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